「夏合宿ですか?」

「うん。今までは三人だったからお互いの家に泊まって練習してたんだけど、今年はメンバーも増えたしどうしようかなと思って」

今まで一度も部活に入ったことのないわたしにとっては合宿なんて無縁の言葉だ。

お家に泊まって練習⋯⋯なんだか楽しそう。

「律んちは? まだ行ったことないしワクワクしねぇ?」

「新、合宿の目的を忘れてない? お泊まり会じゃないんだから」

千里先輩に注意されてしょんぼりする新。

「うちは無理。でも、別荘なら全員泊まれると思う。防音室も完備されてるし」

「別荘⁉ 防音室⁉ 律んちって金持ち⁉」

新はイスに座っていた律の肩を背後からぶんぶんと揺らす。

相変わらず立ち直りが早いな。

そこが新の良いところなんだけど。

「別に普通」

別荘があるのが普通⋯⋯?

律のファンの子たちが知ったら、やっぱり桜路くんはリアル王子様だったって騒ぎになりそう。

「じゃあ、今年は律んちの別荘に決まりだね。それでいい奏人?」

「ああ」

千里先輩は八月の予定表に赤ペンで夏合宿と書き入れた。