「そうだっ!」
「何よ、急に大声なんかあげて。びっくりするじゃない」
「ごめん、海音ちゃん」
「別にいいけど」
「ねぇ、海音ちゃん。MEBIUSを守るのはわたしたちファンの役目だっていつも言ってるよね? それって過激なファンからも?」
「もちろんよ」
もし、桜路くんが環境のせいでピアノを弾かなくなってしまったのなら環境を用意すればいいんだ。
もう一度、ピアノを弾ける環境を。
***
「お、桜路くん⋯⋯!」
「またあんたか」
下校のタイミングを狙い昇降口で話しかけたわたしに桜路くんは眉をひそめた。
「もう一度、話をしたくて。実はわたし、桜路くんがピアノを弾かなくなった理由を友達から聞いたの。勝手にごめんなさい」
「⋯⋯⋯」
「ピアノ嫌いじゃないよね?」
わたしの言葉に下駄箱を開けていた桜路くんの手が止まる。
「何が言いたいんだよ。俺の気持ちがあんたにわかるわけがない」
「全部をわかることなんてできないよ。だって、わたしと桜路くんは違う人間だから。だけど、桜路くんがピアノを好きなんだってことはわかるよ」
「どうして⋯⋯」
「だって、桜路くんは一度もピアノを嫌いだとは言わなかったから。勧誘を断るために嘘をつくことだってできたはずなのにそうはしなかったでしょう?」
奏人たちにも、わたしにもずっと弾かないの一点張りだった。



