「好き」があふれて止まらない!


「去年同じクラスだっただけの人にどうしてそんな話をしないといけないわけ?」

桜路くんは冷たい瞳でわたしを見下ろす。

「それは⋯⋯」

「もういい? ピアノ経験者なら他を当たって」

そう言ってわたしに背を向けた彼。

任せてくださいなんて言っておきながら、桜路くんを怒らせただけで何もできなかった。

ピアノ経験者なら他を当たって⋯⋯か。

桜路くんを説得するよりも全学年の人、ひとりひとりに声をかけて回ったほうが早いのかもしれない。

だけど、ピアノの話をしたときに一瞬だけ見せた寂しそうな目。

あんな目をされたら気になるよ。

桜路くんがピアノを二度と弾かないと決めた理由(わけ)


***


「え? 桜路くんがピアノの弾かなくなったきっかけ? そんなの知らないわ。わたしは奏人くんにしか興味がないもの」

移動教室に向かっている道中、わたしよりも校内のことに詳しそうな海音ちゃんに桜路くんのことを聞いてみたけれど、有力な情報は出てこなかった。

「そっかー。急にごめんね、ありがとう」

「ちょっと咲茉。わたしを誰だと思ってるの。MEBIUSのファンクラブ会長、持永海音よ! 学校内のことならファンクラブ会員に聞けばすぐにわかるわ! MEBIUSのファンが校内に一体、何人いると思ってるの」

海音ちゃんはそう言うと唐突にスマホを手に取った。