「好き」があふれて止まらない!


桜路くんを勧誘することになったわたしは休み時間に早速、五組の教室を訪れたのだけれど、そこに彼の姿はなかった。

諦めて自分の教室に戻ろうとしたとき、廊下の先から歩いてくる桜路くんを見かけて咄嗟に声をかけたのが二分前のことだ。

「お、桜路くん」

わたしの呼びかけに足を止めてくれた桜路くん。

天使の輪っかができたサラサラの金髪に色素の薄い瞳。

まるで絵本に出てくる王子様のようなルックスをしている彼は、去年よりも五センチ近く背が伸びていた。


「何?」

「わたし去年、同じクラスだった比高咲茉なんだけど、少しだけ時間をもらえるかな? 話があって」

「あんたMEBIUSのマネージャーでしょ。バンドの話ならもう断ったから」

そう言ってわたしの前から立ち去ろうとする桜路くん。

「あ、あの。待って! 実はわたしもMEBIUSからの勧誘を何度も断ったことがあって一度、MEBIUSの曲を聴きにこない? 曲を聴けば⋯⋯」

「聴かない。というか、俺は二度とピアノを弾かないって決めたんだ」

「ど、どうして?」

昨日、話を聞いたときからずっと気になっていた。

ピアノを“弾けない”じゃなくて“弾かない”と口にする桜路くんのことが。