「好き」があふれて止まらない!


「咲茉、わたしお手洗いに寄ってから帰るわ。出口はわかる?」

「わかるけど、待ってるよ?」

「待ってもらっても、この後ファンクラブ会員の集まりがあるから帰る方向は別々なの。咲茉も来る?」

「あー⋯⋯、遠慮しときます」

海音ちゃんとは仲良くなれたけど、ファンクラブ会員の人たちの中にまざる勇気はない。

「でしょう? じゃあ、また明日。学校で」

「うん。またね」

海音ちゃんと別れたわたしは前の人に続いて出口を目指す。

ライブの余韻にひとり浸っていると、物陰から誰かに腕をつかまれた。

「⋯⋯っ」

声を発する間もなく、手で口を覆われる。

わたしを大きなロッカーの裏に連れ込んだのは、さっきまでステージに立っていた我妻くんだった。

「静かに」

周りのお客さんにバレないように小声で話す我妻くん。

口をふさがれたままのわたしはコクコクと縦にうなずいた。


我妻くんとふたりの時間は人の声が遠ざかるまで続いて、その間わたしの心臓はずっとドキドキとうるさかった。

「⋯⋯もう平気か。行くぞ」

辺りを警戒しながらわたしの手を引く我妻くんは出口とは反対方向の廊下を歩いていく。

途中、今日ステージで見た出演者の人とすれ違って挨拶を交わしていた。