「好き」があふれて止まらない!


朝から全力疾走なんてするもんじゃない。

「つ、疲れた⋯⋯」

我妻くんは人気のない階段の踊り場に着くまで一度も足を止めることがなかった。

両手を膝につくわたしと違って、息ひとつ上がっていない我妻くん。

ギターを背負いながら走っていたのにまだまだ余裕そうだ。

ここに来るまでの間、すれ違う人全員が我妻くんを見ていた。

一緒にいたわたしは今日だけで一生分の視線を浴びた気がする。

「で、見てもらいたいものって何?」

ギターを壁に立てかけて、自分自身も壁にもたれかかる我妻くん。

「そ、その前に持永さんを置いてきてよかったの? なんか変な誤解もされた気がするんだけど⋯⋯」

「ああ、持永なら大丈夫だろ。変な誤解って、俺が比高を特別って言ったこと?」

“比高は特別だから”

あえて言葉にしなかった部分を我妻くんは平然と口にする。

「う、うん⋯⋯」

「俺はこれからもそう答えるけど。だって、比高とは長い付き合いになりそうだし」

「え?」

「書いてきてくれたんだろ。歌詞」

わたしが大切に抱えていたクリアファイルを指差す我妻くん。