「咲茉、咲茉。もう食べないの?」
「⋯⋯えっ?」
お母さんに声をかけられて自分が今、夕飯を食べている最中だったことを思い出す。
「た、食べるよ」
お皿の上にはまだ一切れしか食べていないとんかつ。
「やっぱりどこか悪いんじゃないの?」
お母さんの言葉に箸を止めたお父さん。
「やっぱりって?」
「咲茉ったら朝食もろくに食べなかったのよ」
「え、咲茉が? お父さん心配だな」
ご飯を少し残しただけで具合が悪いと思われるわたし。
食事のときはご飯をおかわりしない日のほうが少ないし、食欲で体調を判断されるのは仕方ないのかもしれない。
「平気だよ。宿題が難しくて悩んでただけ」
「そうか。わからないところがあるなら後でお父さんが見てあげるよ」
「ありがとう。でも、提出までまだ時間があるからもう少し自分で考えてみるね」
「わかった」
お父さん、お母さん、嘘をついてごめんなさい。
わたしの頭の中を占領しているのは本当は宿題じゃなくてMEBIUSなの。
音楽室から逃げるようにして帰ってきてからずっと『響け!!!』が頭から離れない
一度、聴いただけなのに。



