「わたしにMEBIUSの歌詞なんて書けないよ。我妻くんのファンの子たちに頼んでみたらどうかな」
MEBIUSの頼みならみんな喜んで協力してくれると思う。
「なんで他の奴が出てくるんだよ。俺は比高に頼んでるんだ」
「それってわたしが小説を書くから? 小説を書くのと歌詞を書くのとではわけが違うよ」
「それは俺もわかってる。だけど、比高がいいんだよ。小説を書くからだけじゃない。比高の選ぶ言葉が好きだから」
そんなことを言われたのは初めてだった。
どれだけコンテストや公募に応募しても選外だと選評はもらえないことがほとんど。
サイトに載せている小説にも感想はゼロで、わたしの小説について話してくれたのは我妻くんが初めてだ。
“比高の選ぶ言葉が好きだから”そう言われて涙が出そうなくらい嬉しかった。
わたしは言葉と向き合う時間が大好きで、歌詞を書いてみたい気持ちもある。
だけど、やっぱりわたしには書けないよ。
「ごめん。わたしには無理なの」
「どうして?」
「今は小説を書くだけでいっぱいいっぱいだから。わたしには二つのことなんてできないの」
小説で結果を残せていないわたしが作詞に時間を費やすことなんてできない。



