小説を書いていることは家族以外誰にも言っていないのに、よりによって同じクラスの我妻くんにバレちゃうなんて。
「それで本題はこっからなんだけど」
「えっ⁉ これで終わりじゃないの?」
わたしの大きな声が廊下に響いて、壁に手をついていた我妻くんが数歩後ろへと下がる。
これ以上、何を話すことがあるんだろう。
「本題って何?」
「比高に俺たちのバンドの歌詞を書いてほしい」
「⋯⋯へっ?」
我妻くんの口から出た突拍子もない発言に間抜けな返事をしてしまうわたし。
「バンドの歌詞って?」
我妻くんのバンドってMEBIUSのことだよね。
「MEBIUSのラブソングを比高に書いてほしいってこと」
「あの⋯⋯言ってる意味がよくわからないんだけど」
どうしてわたしにそんな話をするんだろう?
「俺たちラブソングだけは書けないんだよ。だから、他に書いてくれる人を探してて、比高なら書けるんじゃないかと思って」
我妻くんは持っていたルーズリーフをひらひらと揺らした。
わたしを旧校舎まで呼び出したのはその話をするためだったの?



