旧校舎まで来てようやく足を止めた我妻くん。
「あっ、あの我妻くん。わっ、わたしのルーズリーフ⋯⋯」
彼の歩幅に合わせたせいか、わたしの息は微かに上がっている。
「ああ、返すよ。その前にひとつ確認してもいいか?」
「うん?」
「あのさ、これって小説だよな?」
その言葉のあと、視界は白と黒の色で覆われた。
目の前でひらりと揺れたのは間違いなくわたしのルーズリーフだ。
あ⋯⋯我妻くん今、小説って口にしたよね?
目を見開くわたしの向こう側で我妻くんがどういう表情をしているのかはわからない。
だって、わたしの視界は数秒前からルーズリーフに遮られているから。
「あの、これは小説っていうか。ほ、本が好きで! その本の内容を書き写したものなんだ~」
「誰のなんて本?」
「えっと⋯⋯」
「なんのために書き写してんの?」
「それは⋯⋯」
普段あまり喋らない我妻くんから次々と質問が飛んでくる。
「まぁ、いいや」
ようやく終わった質問タイムにほっと胸をなでおろす。
目の前にあったルーズリーフはゆっくり遠ざかっていって、いつもと変わらない表情をした我妻くんと目が合った。



