話は十五分前に遡る。

辺りをキョロキョロと確認しながら自分の席に着いたわたしはどうやって小説を回収するか考えていた。

『我妻くん、おはよう! 昨日、わたしのルーズリーフが一枚足りないことに気づいて⋯⋯。我妻くん持ってないかな?』

これが自然かな。⋯⋯本当に?

わたしみたいな目立たない人間が人気者の我妻くんに自ら話しかけるなんて不自然じゃない?

一度、教室から出てもらう?

だけど、そのためには結局自分から声をかけないといけないし⋯⋯。

小説を読みたい気持ちをグッとこらえて必死に頭を働かせる。

三パターン目を考えはじめたときに廊下から黄色い歓声が上がった。

それから間もなくして我妻くんと同じMEBIUSのメンバーである杉浦新くんが教室に入ってきた。

き、来た⋯⋯!

近くの男の子と挨拶を交わして席に着く杉浦くん。

我妻くんは廊下側にある自分の席をスルーして教室の奥へと足を進める。

そして、なぜかわたしの目の前で立ち止まった。

「あのさ、ちょっといい?」

我妻くんはいつもと変わらない平然とした表情でわたしを見下ろした。