体育館を飛び出したわたしたちは、人気のない場所を探しているうちにいつもの音楽室へとたどり着いた。
「いいのかな抜けてきて」
「ライブは終わったし大丈夫だろ。あとは千里がなんとかするって」
あっけらかんとした表情で近くの机に腰掛けた奏人。
「それよりも、俺の歌は届いた?」
わたしの体を引き寄せた奏人は正面から肩に手を回して、わたしが逃げないようにホールドしてくる。
体育館にいたときからずっと鳴りやまない心臓の音がまた一段と激しくなった。
「あんな曲を書くなんて反則だよ。もうわたしが歌詞を書く必要なくなっちゃった」
だって、奏人はラブソングを克服したから。
「あれは咲茉に向けた曲で、俺は今後もラブソングを書く予定はねぇよ。この先、どんな曲を書いたって咲茉への告白にしかならないから」
「⋯⋯っ!」
奏人って平然とした表情で甘い言葉を口にするからずるい。
「咲茉、俺と付き合ってくれる?」
小説のような恋がわたしにも待っているなんて思わなかった。
現実の恋はもっと甘くて、もっと苦いこともあるだろう。
けれど、奏人とならきっと大丈夫。
「はい。お願いします」
わたしがぎゅっと抱きつくと、机に手をついた奏人。
「すげー勢い」
「好きって気持ちがあふれて止まらなかったの!」
「なんだそれ。可愛すぎるだろ」
奏人はそう言うと、わたしのおでこに優しい優しいキスを落とした。



