「奏人! かっこいいぞー」
背中越しに新の声が聞こえてくる。
わたしたちは大勢のお客さんに見送られながら体育館を後にした。
***
「律はよかったの? 奏人と咲茉ちゃんを行かせて」
「どういう意味ですか、千里先輩」
「実は一週間前、見ちゃったんだよね。律と咲茉ちゃんがふたりで旧校舎にいるところ。本当は冗談なんかじゃなかったんだろう?」
「かっこ悪いですよね。自分の気持ちもちゃんと伝えられないなんて」
「そんなことないよ。律は咲茉ちゃんの気持ちを知ってたから困らせたくなかったんだろう? 好きな子のことを一番に考えられるかっこいい男だよ」
「⋯⋯ありがとうございます、千里先輩。俺、今ならとびきりの失恋ソングを書けそうです」
「へぇ、どんな曲?」
「叶わなかった恋に胸が痛む。だけど、好きな子の幸せを願うそんな曲」
「いい曲だね。いつか聴かせてよ」
「はい」
──ステージ上には、わたしの知らない物語。



