わたしの小説に出てくるヒーローでも毎週は告白されない。
奏人からはそんな話を聞いたことがないけど、言わないだけで似たようなことが起きてるのかな?
そう考えたら胸の奥がざわついた。
「彼女がいたらそういうのも減ると思うんだけど⋯⋯そうだ、咲茉。俺と付き合う気ない?」
旧校舎に着いた途端、真剣な表情でわたしの手を握った律。
わたしと律が付き合う?
話の流れ的にカモフラージュってことだよね。
律が困っているなら力になりたいけど、奏人のことが好きだと気づいた今、中途半端なことはできない。
「ごめんね、律。わたし好きな人が⋯⋯」
「冗談だって。本気で振ろうとするなよ」
「だったら、もうちょっと冗談っぽい口調で言ってよ」
「ごめん、ごめん。ほら、急ごうぜ」
「もう……」
階段を二段飛ばして駆け上がっていく律の背中を追うわたしが、彼の晴れない表情に気づくことはなかった。



