「なんだこれ」
目の前のルーズリーフをまじまじと見つめる俺を不思議に思ったのか、ベースを弾いていた千里の手が止まる。
「奏人どうかした?」
「いや⋯⋯」
文字でびっしりと埋まったルーズリーフには見覚えがあって、誰のものか一瞬でわかった。
『お賽銭を入れて、ふたりで手を合わせる』
『この時間がずっと続けばいいのに』
『真剣に頼みごとをする彼の横顔を盗み見て、私はもう一度強く願った』
あのときは気にも留めなかったけど、これって日記か? いや、小説?
「奏人ー? おーい、見つかったか?」
「あー⋯⋯ああ。あった」
俺は比高のルーズリーフだけを素早く抜き取り鞄の中へとしまった。
そして、残りの束を千里に手渡す。
「相変わらずすごい量だな」
楽譜を見ながらベースを鳴らす千里。
「おー、いいじゃん」
どうやら好感触のようだ。
「なぁ、作詞も作曲もできない俺が言うのもなんだけど、そろそろラブソングもやらね?」
俺と千里が話す横でずっとスマホを見ていた新が渋々、口を開いた。
「なんだよ急に」
「ほら、見ろよ」
新は俺と千里にスマホの画面を見せてくる。
そこには《MEBIUSってラブソング歌わないよねー》と書き込まれていた。
俺たちもよく利用するSNSだ。



