翡翠の一輪花

***

やっちまった…


思わず口を手で覆って廊下にしゃがみ込む。


俺はなにをしているんだ…


翡翠のことにもちゃんとケジメをつけようって思ってたのに…


『あれ、葵さま?』


ふと誰かの声が聞こえて顔を上げる。


『こんなところでどうしたんですか?』


花梨か…


「…なんでもない。気にするな」


『だいじょうぶですか…?あの、組長が葵さまのこと探してましたよ?』


「…わかった」


気持ちを切り替えて、立ち上がる。


『あの、なにかあったら私を頼ってくれてもいいんですよ…?』


「…なにかあったら、な」











「失礼します」


『入れ』


中には組長(俺の親父)とお袋がいた。


『お前、翠が好きなんだろ?』


この親父は開口一番なにを言い出すんだ…


「まあ…」


『だったら、花梨ではなく翠といる方を選ぶんだな?』


「…はい」


チラッと目配せをする親父とお袋。


『あのね、花梨ちゃんには一週間後ここから出て行ってもらおうと思うの』


「…そうですか」


『後悔はないかしら?』


「俺が選ぶのは翡翠だけだ」


『あら、』


『葵、お前も立派になったなぁ。もう組を任せてもだいじょうぶそうだ。』











「…え?」


『葵、お前は一週間後からちゃんとした若頭だ。』


は…?


『でも、自分が大切にしているものも守れない奴は若頭になることは許されない』


『葵は、翠ちゃんを守りきれるかしら?』


「…守ります。今度こそは、あんなことにならないように…」


半ば自分に言い聞かせるように決意を口にした。


『うん、だいじょうぶじゃないかしら?』


『ああ。じゃあお前は今から正式に水瀬組の若頭だ。これからはお前が水瀬組の指揮をとるんだ。頑張れよ』


「はい」


組長室を出て、宴会場へ足を進めた。