真夜中の償い

リアムとのペントハウスでの暮らしが落ち着いてきて、由里の方の仕事のピークもひと段落した、ニューヨークに秋の気配が感じられる様になってきた10月のある日、由里に見知らぬ人から電話がかかってきた。

見知らぬ人ではあったが、彼は有名な銀行の頭取のミスターゴバートだった。

リアムの事で話があると5つ星ホテルのロビーに、呼ばれたのだ。

リアムには言わずに来てほしいということだった。

ミスターゴバートの指定してきたのは、電話のあった次の日の金曜日の午後6時だった。

有無を言わせず明日の時間と場所を指定するとは、傲慢な人物だ。

でも彼の地位を考えれば、周りの人間を使い慣れていて、自分の指示を聞くのは当たり前だと思っているのだろう。

こちらの都合を聞くでもなくただ命令されたようなものだ。

嫌な胸騒ぎと不安と共に由里は指定された時間に、ホテルのロビーにあるソファースペースに向かった。

ミスターゴバートはすでに来ていて、由里がソファーに座ると挨拶もなく話し始めた。

話はストレートだった。

由里はリアムの隣にいるには不似合いだ。

すぐに彼と別れて日本に帰ってほしいと言うことだった。

ミスターゴバートの娘が今年大学院を卒業して、リアムの妻になるべく2ケ月前からRKOで第2秘書のマットの下で、秘書業務の仕事についているということだ。

由里は何も聞かされていなかった。

リアムはいちいち仕事の話はしないけれど、そんな大事な事なら言ってほしかった。

由里がなにも聞かされていないと言う事が、すべてを物語っているのではないかと彼は主張した。

遅くできた一人娘で目に入れても痛くないというほど、彼女が可愛いという事だ。

彼女は小学校の頃からリアムを知っていて、リアムのお嫁さんになるのが夢だったそうだ。

ミスターゴバートはリアムが大学生の頃から彼に目をかけていて、経済の成り立ちや会社を立ち上げてやっていくことを、手とり足とり教えたそうだ。

何も後ろ盾のなかった彼に将来性という不確かなものだけで、多額の融資をしたこともあったという事だった。

つまり彼はリアムの大恩人ということだろう。

そんな人の娘との縁談を断れる訳はないだろう。

ケンからも何も聞いていない。

ケンは女性の事になると神経質になって細かなことも、報告してくれるはずなのだ。

そんな近くに優秀な恩人の娘さんが働きだしたなら、黙っているほうがおかしい。
というより言えなかったのだろう。

リアムにとってこの縁談を断るすべはないだろうと、由里にも理解できた。

「由里さん来月リアムの会社の10周年記念のパーテイがあるだろう。その時リアムの横にいるのが君であるのと頭取の娘であるのと、どちらがリアムのこれからの人生にプラスになるのかは君自身にも分かるだろう。どうもリアムは優しすぎて君に何も言えないようだから、私が憎まれ役を買って出たんだよ」

由里は俯いたまま何も言えずにいた。

ただ涙をこらえるのが精いっぱいだった。

泣くのは嫌だった。