この男は、
今
なんて言った?
「…………は?」
死ぬ?
どうして
現実世界では、なにも起きてないのに。
どうして
「あの男が言ってたろ?…【ユイト】、だっけ。『このゲームは普通じゃない』、みたいな事。」
「それが……なに、?」
「現実世界に居るお前の身体は、今、【ユイト】に刺されて失血死してる状態なんだよ」
「…………は?……なにそれ、意味わかんな………」
なんで、現実世界とゲームがリンクしてるわけ?
おかしいでしょ……?
「あー、いや…違う。語弊があるな……。」
男は少し悩むと、すぐに顔を上げ私を見詰める。
「……身体が刺された状態が、そのまま現実世界に移ってる訳じゃないんだ。……お前の脳が “ 刺されて死んだ状態だ ”、と認識したまま…って事。」
「………よくわかんないんだけど」
「あー…ムズいよな。…えーっと……『私はもう死んでるから、現実でも脳は機能しません!』…みたいな状態なの。お前。…だから、現実世界に戻っても、お前は今までみたいには暮らせない。」
「………植物状態になる、ってこと?」
「そ、お前は今、現実世界に戻ってもなにも出来ない……意識もない、植物状態。まあ、つまり死ぬのと同義なんだよ。このゲームの奴等は、身体には干渉できなくても脳には干渉できるからな…厄介なんだよ。」
「それじゃあ…私は」
もう、一生現実世界に戻れない……ってことなの?
「………いや、戻れる方法はある。」
「………ぇ?」
「正規ルート……つまりHAPPY END を攻略するんだよ」
HAPPYEND ………
「BAD END…裏ルートはな、大体死ぬか、一生残る傷をつけられるか、監禁か、薬漬けか、マインドコントロールとか………まあ、色々とヤベェんだよ。その状態が、そのまま現実世界のお前の脳に移されてんの。」
「………裏ルートを回避すればいいんじゃないの?」
「お前、回避できてなかったじゃん。」
……、なんなんだ、この男。
「だって、あれは私は別に、なにも……」
「してたんだよ、お前、学校で“1000年に1人の魔性の女”…だったか?そんな渾名で呼ばれてんだろ。」
「その渾名はやめて。恥ずかしい。」
「まあそんなのどーでもいいんだわ。…お前はこの小っ恥ずかしい渾名がつけられるほど、何かを惹きつける魔性…、魅力があるんだ、ってことを自覚しろ。」
「私は、別に…なにも。」
「自覚しろ、っつってんだろ。」
男は私を鋭い目突きで睨む。
「このゲーム…さっきまで、お前がプレイしてたゲームな。コレ、他のゲームと違うんだわ。」
「……菜子がくれたゲームが?」
「そ。でも別に、その菜子って奴がお前を騙した訳じゃねーよ。ソレ、菜子って奴が他の会社の奴から貰ったモンなんだわ。」
「………なんでそんな事知ってんの」
「俺は何でも知ってんの。……まあ、それで菜子って奴は、デカいグループの一人娘だろ?まあ、色々あんだろうな。コレはその菜子って奴の為に改変されたゲームなんだよ」
「………」
「普通のゲームは、没入型っていう点は一緒だけど、キャラの内部にあるAIの質が違う。…普通の【あいの輪廻】は、普通の応答型AI。でも、この【あいの輪廻】のAIは、自律型AIなワケ。」
「…自律型?自分で、考えて、行動できる…ってこと?」
「そ。だからあんな頭のおかしい行動ができちまうんだわ。」
菜子が、そんな事をされていたらと思うと、ぞっ、とする。
「デカいグループの娘には、性能のいいゲームを渡したんだろ。……ソレがこうなるとは、誰も思わないだろうしな。」
……菜子は、良い性能のゲームを、私にあげようとしてくれてたんだ。
……嬉しい。…けど、それでこうなったと思うと複雑…。
「……話がズレたが。お前が戻るにはHAPPYENDを迎える必要がある。……なんでだか解るか?」
このゲームでは…ENDを迎えると、脳がその状態のまま現実世界に戻っちゃうんだよね?
「死ぬ事も、傷をつけられることも、監禁されることも、薬漬けにされることも、マインドコントロールされることもない………幸せな結末を迎えれば、現実世界でも支障はない、ってこと?」
「そゆこと。……だから、お前はこのゲーム内で輪廻転生する必要がある。…輪廻転生、つーか、リトライってこと。リトライして、HAPPY ENDを迎えるまでは、絶対にゲーム終了すんなよ。死ぬから。」
……あのボタンは、そういうことなのか。
助かった。
この、名前も知らない男のお陰で。
「………ありがと、教えてくれて。」
「いーえ。……琳廻、だっけ?」
「合ってる。……貴方の名前は?」
「……カナタ。覚えなくていい。」
…カナタは、なんでこのゲームにいるんだろう。
「……ねぇ、カナタ。なんで貴方はこのゲームにいるの?」
「…………さあな。…俺も知らねぇ。」
……どういうこと?
「俺もわかんねーんだわ。……気がついたら、ずっと、ずーーっと此処に居た。………人間の形をした奴とは、初めて会った。」
「…え」
この何もない空間に、ずっと1人で…?
菜子はココまで到達してないだろうから、この特別性のゲームの制作日はわからない。
でも、少なくとも菜子がゲームを始めたのは三ヶ月程前だから…
カナタは、そんな長い間を独りで……?
私なら、気が狂ってしまう。
「…まあ、要は俺はヘルプみてーなモンと考えてくれていい。BAD ENDルートでしか、此処まで来れないっぽいからな。」
「……カナタは出られないの?」
「出られねぇ。何度も試した。………そんなことはどうでもいいんだよ。オマエは早く、輪廻転生…リトライしろ。」
カナタは私をディスプレイの前まで引き摺っていった。
「“輪廻転生”のボタンを押せば、また初期設定から開始できる。…【ユイト】にビビんなよ。普通に接しろ。」
「…無理……だよ、そんなの……」
未だに、【ユイト】に刺された恐怖は抜けない。
そんな状態で、【ユイト】と普通に接するなど、出来る訳がないじゃないか。
「やらねぇと、また死ぬ。……死にてぇの?」
「…嫌に決まってる」
「…だろ。なら、普通に接しろ。無理でも、演技しろ。バレないように、しっかりな。…あいつ等は自律型AIだ。お前等人間より、ずっと、ずぅっと知能は高いんだよ。下手な演技はすぐにバレるからな。」
「………わかっ、た」
「よし……。なら、早く“輪廻転生”を押せ。わかったな?」
「…うん」
カナタの事を振り返って見つめる。
まだ出会って少しだが、離れるのは寂しい。
「………またね、カナタ」
「……………また、なんてねぇよ。」
カナタは、目を細める。
「…そもそも、BAD ENDなんて都市伝説みてぇなモンなんだわ。早々起きねぇよ。…、だから、これでさよならだろうな。」
「………そっか。」
“輪廻転生”ボタンを押すと、白い空間が段々暗くなっていった。
カナタを見ると
何故か、少し口元に笑みを浮かべていた。
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