「リン ! はよ!」
家から出ると、家の前でユイトが立っていた。
朝から爽やかな笑みを私に向けている。
前とは違って、心から笑っているように見えた。
「……おはよ、ユイト」
私はそんなユイトを見て、良かったと感じていた。
でも、同時にユイトが私に何かしたのだと考えてしまい、うまく笑うことができなかった。
ユイトから目線を逸らして、下を向く。
今、彼と目を合わせると、どうしようもなく怖くなるから。
「……なんかあった?すげーぶっさいくな顔してんぞ?」
「…うるさい」
「やっぱ、なんかあったんだろ?」
「……何もないから」
「……嘘つき」
ユイトは、ぐい、と私の顎を掴んで無理矢理上を向かせた。
「ぃ゙ッ 、…」
「コッチ見ろよ」
掴まれた顎が、痛い。
どんどんユイトは力を強めていく。
「目ぇ逸らしてんじゃねぇよ。何か俺に疚しいことでもあんの?」
「そう、いうわけじゃ、っ、…」
「なら何で目ぇ合わせねぇの?なんかあんだろ、やっぱ。嘘つき。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき…」
じっ、と私の瞳の奥を覗くように、ユイトは私を見詰める。
そして、狂ったように同じ言葉を繰り返す。
ユイトはどうしたの?
やっぱり、私が思ったことを喋れなかったのは、ユイトのせいなの?
怖い
怖い、怖い
怖い、怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわい怖い怖いこわい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ……!!
「ゃ、やだ、ユイト、やめ…っ」
「あ〜……もーダメだわ、やっぱ。」
ユイトは私の顎を掴んでいた手を離し、顔を覆う。
「 “ リンネ ” が俺以外のこと考えてるとか、気持ち悪くて苛つくわ ~ ……」
「……………………ぇ?」
なん、で
私のユーザーネームは “ リン ” なのに、
ユイトは、今
私の事を “ リンネ ” って呼んだの……?
「……あー……、バレちゃった?俺さぁ、もうリンの事なら何でも知ってんだよねぇ……」
ユイトは楽しそうに笑いながら、私を見詰める。
「リン、なんて名前じゃないだろ?本名はアイ リンネ 、漢字は愛する、の愛に、依存の依、琳琅の琳に、廻るの廻……。愛依 琳廻 。可愛い名前だよね 。 ゲームでは15歳だけど、現実じゃ17歳。高校2年生か?年上なんだよな。■■高校だろ?偏差値高いらしいじゃん。琳廻は頭いいんだな。身長は162cm。体重は…言わない方が良いよな?好きな食べ物は苺。可愛い。嫌いなものはピーマン。子供っぽいよなぁ。そんなところも愛しい。親は既に他界してる。会ってみたかったけどなぁ。親友は 寿 菜子。仲良すぎねぇ?まあ琳廻を他の輩から守ってたことと、俺等を出会わせてくれたことは感謝してる。それから………」
「ぃ……いや、っ、!もう止めて、!!」
なんで、そんなに個人情報を知ってるの?
…というか、なんでユイトにこんな意思があるの?
ただのゲームでしょ?
ユイトは、ゲームのキャラクターで……
サーバーにバグが生じたとか?
じゃなきゃおかしい。
AIも、サーバーも、意思なんてないはずなのに……!!
なのに、なんでユイトは、
「不思議?俺が琳廻の事、こーんなに知ってること。」
私の頬に手を添えながら、ユイトは微笑む。
「 “ 俺達 ” は、ただのゲームじゃねぇんだよ。 」
「……………なにそれ…」
菜子が私の事を騙した?
いや、菜子はしないはず。そんなこと。
でも、じゃあ
「このゲームにいる奴等は、全員“ 自分の意思で行動する ” ことができんだよね ♡ 」
なんなの、“ コレ ” 。
自分の意思で行動する ?
どうやって?
何をして?
駄目だ
これ以上このゲームにいたら、駄目だ。
帰らなきゃ。
現実に………
「………は?何勝手に帰ろうとしてんの?」
「ッ、ひっ……!」
ログアウトボタンを押すために、手でウィンドウを開こうとした。
でも、その手をユイトはとても強く、強く掴む。
「………俺を置いて帰るとか、させるわけねーじゃん…♡」
ユイトがそう呟くと同時に、ウィンドウから“ ログアウトボタン ” が消えた。
「…………………ぇ……………どう、して………」
「ただのゲームじゃない、って言っただろ?プレイヤーの身体の自由も、ゲーム画面ハックするのも、“ 俺達 ” には簡単に出来ちゃうんだよなぁ…♡」
嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌…
帰して
お願い、帰して
「ユイ、ト……ッ!お願、い、もう、帰して…っ」
「嫌だ。……そんなの、俺が赦すとでも思ってんの…?」
怖くて涙が溢れる。
怖くて怖くて溜まらない。
顔はぐちゃぐちゃで、何がなんだかもう解らない。
なのに、ユイトはそんな私を、
とても愛しいモノを見る様な目で見詰める。
「愛してるんだよ、琳廻…♡」
そうユイトが呟くと同時に、
ピコンッ、という間抜けな音がした。
《 好感度が上がったよ♡【ユイト】 120% 》
「…………は?」
100を………超えてる?
攻略完了、って、100だよね?
なんで………
「あー、好感度見えてんだよな?ははっ、俺も好感度が100超えるとか初めて見たわぁ……、まあ、これで俺がどれだけ琳廻の事を愛してるか、わかったよな?」
ユイトは屈託なく笑いながら私を見つめ続ける。
「……もう琳廻と離れたくないんだよね、俺。だから…」
ユイトがそう言うと同時に
お腹の辺りに
重い衝撃と、
焼けるような痛みが襲ってきた。
「………っ、え……っ、…?」
「………琳廻は、俺の手で 殺 す」
ユイトは、何時から隠し持っていたのか解らないナイフを私の腹から抜いた。
理由もわからず、私は膝から崩れ落ちる。
痛い。
痛い。
焼かれているみたい。
痛い。
腹へやった手には、べっとりと血がついていた。
痛い。
痛い。
口の中も、鉄の味がした。
痛い。
痛い。
理由がわからない。
痛い。
なんで、どうしてこうなったの?
痛い。
ユイトはなんで私を刺したの?
怖い。
私は死ぬの?
痛い。
ゲームの世界で死んだら、どうなるの?
怖い。
現実へ戻れるよね?
痛い。
ゲームなのに、なんでこんなに痛いの
痛い。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いこわい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いさむい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛いさむい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいやだ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い嫌だ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛たすけてい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いさむい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いこわい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いさむい痛い痛い痛い痛い痛い痛いしにたくない痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…
「……ほんとにさぁ…なんで死にかけててもかわいーの…♡」
ユイトは私と目線を合わけるようにしゃがみ込む。
私は
痛くて
怖くて
寒くて
眠くて
もう何も考えられない。
「俺が殺した、俺だけの琳廻…♡」
めのまえが くらくなる
ユイト は、ずっと わらってる。
そんな ユイト は、 なにか いった 。
「…………まぁ、 琳廻は死んでも、まだ輪廻は続くから……な♡」
「りんね……が、……つづく、……っ、…て、…どういう、こと……?」
「琳廻は、もう戻れないってこと♡」
ユイトは私を抱き締めて、
ぞっ、とする様な、冷たい声色で
「 “ 今回 ”は、俺だけの琳廻だから。………次は誰なんだろーな。」
私が最期に見たのは
“ どれだけ生まれ変わっても、誰にも渡さないけど ”
と呟いたユイトだった。



