陽翔が生まれてからの日々は、忙しくも、温かく、幸せに満ちていた。授乳やオムツ替え、夜泣き対応に戸惑うこともあったけれど、康太さんがそばにいてくれることで、私は少しずつ自信を取り戻していった。
毎朝、陽翔の小さな手が私の指に絡まると、疲れも吹き飛ぶ。小さな目でじっと私を見つめ、柔らかく微笑む瞬間に、胸の奥がぎゅっと温かくなる。夜中に泣き出したときも、康太さんと二人で抱っこしながら声をかける。
「大丈夫だよ、陽翔。ママもパパもここにいるからね」
こうした日常の中で、夫婦の絆も少しずつ深まっていった。康太さんは仕事で疲れて帰宅しても、私や陽翔のために笑顔を見せてくれる。私もまた、陽翔を抱きながら康太さんと目を合わせると、自然と笑みがこぼれる。
陽翔はすくすくと成長していった。寝返りを打った日、初めて声を出して笑った日、ハイハイやつかまり立ちをした日――どれも私たち夫婦にとって特別な瞬間だ。康太さんと一緒に見守りながら、胸の奥に込み上げる愛おしさに涙を浮かべることもあった。
やがて陽翔は言葉を覚え、私たちと会話をするようになった。
「にぃに!」
陽翔の元気な呼び声に、康太さんは笑顔で応える。陽翔にとって、康太さんは「にぃに」のような存在で、二人の関係は微笑ましい日常となっていた。
数年が過ぎ、陽翔が小学校1年生になる頃、私たちは再び新しい命を授かることになった。妊娠がわかった日のことは今でも鮮明に覚えている。康太さんと二人で検査薬の結果を見つめ、驚きと喜びが入り混じった笑顔で抱き合った。
「また家族が増えるね」
「うん……陽翔に妹ができるんだね」
その後、私たちは妹の名前を考えた。陽翔とのバランスや呼びやすさを考え、いくつか候補を出す。康太さんと話し合いながら、私たちは笑顔で名前を書き出した。
「結愛……ゆあっていうのはどう?」
「いいね、陽翔とも響きが合うし、優しい感じだ」
こうして、妹の名前は**結愛(ゆあ)**に決まった。名前を決めた瞬間、すでに妹への愛情が胸いっぱいに広がった。
妊娠中の生活は、陽翔の世話と並行して続く。体調の変化や不安もあったが、康太さんは変わらず優しく支えてくれた。陽翔も赤ちゃんが生まれることを理解してか、私たちの話す言葉に興味津々で耳を傾ける。
「にぃに、赤ちゃんいつ来るの?」
「もうすぐだよ。にぃにもお世話を手伝ってね」
そして、結愛の出産の日。康太さんと手を握り合いながら病院に向かう。陣痛が始まり、痛みに耐える私を支えてくれる康太さんの手の温もりが何よりの励ましだった。分娩室での数時間、痛みは極限に達するけれど、康太さんの声が私を勇気づける。
「大丈夫、ゆう。もうすぐ会えるよ」
ついに産まれたのは、小さな女の子。赤くて柔らかい小さな手を握りしめながら、私は涙を抑えられなかった。康太さんもそっと私に寄り添い、温かく微笑む。
「よく頑張ったね、ゆう」
「ありがとう、康太さん……」
陽翔は小学校1年生になったばかりで、少し不安そうに妹を覗き込む。私は笑顔で陽翔を抱き寄せながら、「これからはにぃにとしても頼りにしてね」と声をかける。陽翔も自然に小さな手を結愛に伸ばし、優しく触れる姿に、私はこの家族の未来がさらに広がったことを感じた。
こうして、私たち家族の日常は新しい章を迎えた。陽翔と結愛、康太さんと私。笑い、泣き、悩み、喜びを分かち合う日々の中で、家族の絆はどんどん強くなっていく。夜、寝室で二人の子供を見守りながら、康太さんと手を握り合う。未来はまだ見えないけれど、この家族と一緒なら、どんな日も乗り越えられると確信できた。
外には夜空の星が瞬き、窓から差し込む月の光が、私たち家族の時間を優しく照らしている。高校時代の思い出、大学時代の恋愛、結婚生活、そして今の幸せ――すべてがつながり、私たちの物語は静かに、しかし確かに続いていった。