春の風が心地よく校舎を吹き抜ける。桜の花びらが淡く舞うキャンパスに足を踏み入れたとき、胸の奥がざわつくのを感じた。高校を卒業して新しい生活が始まる――けれど、私の心は、ただの新生活への期待だけではなかった。
「会いたい」
その思いが、私をこの大学に導いたのだ。康太さんも孝太さんも、同じ大学に通っている。高校時代、三人で過ごした放課後の時間や文化祭の準備の思い出が、ずっと心に残っていた。もう一度、二人と同じ場所で、同じ時間を共有したい――そんな気持ちで私はこの大学を選んだ。
入学式の日、キャンパスの広場で新入生たちの中に混じりながら、私はそっと周囲を見渡す。桜の木の下、康太さんと孝太さんが、三年生として学生たちを迎えている姿が目に入った。胸が高鳴り、思わず小さく息を飲む。高校時代、放課後の委員会で隣に座ったときの距離感や、文化祭で肩が触れそうになった瞬間を、鮮明に思い出した。
授業が始まると、私は大学での生活に少しずつ慣れ始める。新しい友達や講義、サークル活動――すべてが新鮮で、毎日があっという間に過ぎていく。けれど、康太さんと孝太さんと同じキャンパスにいるだけで、私の心は小さな幸福感で満たされる。
ある日の昼休み、キャンパスのカフェテリアで一人座っていると、康太さんがふと声をかけてくれた。
「ゆう、こっち座っていい?」
その笑顔に、胸がぎゅっと熱くなる。高校時代と変わらない明るさで、私の隣に座る康太さん。反対側には、静かに微笑む孝太さん。三人で並んで座ると、まるで時間が高校時代に戻ったかのように感じた。
授業やサークル活動で忙しい日々でも、放課後には必ず顔を合わせることができる。康太さんの明るさに思わず笑い、孝太さんの落ち着いた優しさに安心する。心の奥では、二人に対する特別な感情が静かに芽生えていることを感じながらも、どちらに傾くべきか、まだ答えを出せずにいた。
ある日の夕方、大学の図書館前のベンチで三人で休憩する。風に揺れる桜の花びらが、夕日で淡く染まっている。康太さんがふとつぶやいた。
「大学に入ってから、こうして一緒に過ごせるの、嬉しいな」
その言葉に、私は自然と笑顔になる。心の奥でじんわりと温かさが広がり、胸が少し高鳴った。私も心の中で答える。
「私も……同じ大学に入ってよかった」
キャンパスで過ごす日々は忙しく、課題やサークル活動で目まぐるしい。それでも、三人で歩くキャンパスの道、昼休みに並んで座るカフェテリア、放課後に寄り道して話す時間――そんな日常の一つひとつが、私にとってかけがえのない瞬間となっていた。
ある日、孝太さんが静かに話しかけてくれた。
「大学生活、楽しい?無理してない?」
その言葉に、私はふっと肩の力を抜く。孝太さんは昔と変わらず、優しく私のことを気遣ってくれる。康太さんの明るさ、孝太さんの落ち着き――二人の先輩は、私にとってそれぞれ違う形で心の支えになっていた。
大学生活が始まって間もない日々、私は改めて思った。距離や学年は関係ない。心の距離は、自分の意志で近づけられる。高校時代と変わらない想いを胸に、私は康太さんと孝太さんとの関係を少しずつ育んでいくことを決めた。キャンパスの桜が舞う中で、私の大学生活は、二人との再会と、新しい日々の始まりで満たされていたのだった。