メリーでハッピーなトゥルーエンドを

     ◆



「お兄ちゃん、お弁当忘れてるよ」

 玄関で靴を履いていると、玲がランチバッグを差し出してきた。

「ああ、本当だ。せっかく作ってくれたのに悪いことするところだったね」

「そんなのいいから、早く出て。鍵閉めるよ」

 追い立てられるようにドアから出ると、玲は慣れた様子で鍵を挿して回した。

 施錠されているかどうか取っ手を引いて確認してから、マンションの共用廊下を歩き出す。

 階段の方へと向かう凜とした後ろ姿を眺めていると、ふっと思わず頬から力が抜けた。

(俺より頼りになるなぁ……)

 両親を早くに亡くし、中学生の頃から親代わりとして妹の面倒をみてきた。
 祖父母の手を借りたりもしたけれど、ふたりともが高校生になったいまは、玲とふたりで暮らしている。

 小さいときは泣き虫で甘えん坊だったはずの玲だったが、いつの間にか俺よりもしっかり者になっていた。

 強くて心優しい、そんな自慢の妹だ。
 玲にとっての自分もそうだったらいいのだけれど。

「何してるの? 早く行かないと遅刻するよ」

「いま行く」

 足を止めて振り向く玲に追いつくと、階段を下りていった。



 ────ある日のことだった。

 玲が突然、命を落とした。

 帰り道、横並びで列をなす自転車に当たられ、車道へ飛び出してしまった女子生徒を庇ったのだという。
 そうしたら、代わりに玲が車にはねられた。

「嘘だ……嘘だ……」

 うわごとのように繰り返しながら、駆けつけた病院の廊下で立ち尽くす。
 棒みたいになった足から力が抜けて崩れ落ちた。

 とても信じられない。信じられるわけがない。
 ついさっきまでは何も変わらない日常だったはずなのに。

 今朝、玲が作ってくれる弁当をいつも通り受け取って、一緒に家を出た。

 学校でも購買帰りの玲と廊下で出くわして、他愛のない会話を交わした。

 家に帰れば、また玲が作った夕食を一緒にとるはずだった。
 それがなぜこんなことに────。

 視線だけ上げると、ゆらゆらと揺れる視界に“彼女”が飛び込んできた。
 離れた位置にある長椅子で警察と話している女子生徒。

 見るからに蒼白な顔で、聞かれたことに答えるのが精一杯という調子だけれど、それを見ているだけでも知らないうちに激情が渦巻き始めていた。

(春野……)

 後輩である彼女、春野花菜とは去年、同じ委員会に属していた。
 お陰で顔を合わせればたびたび言葉を交わすことも少なくなかった。

 玲が庇った相手は、彼女だった。