(でも、確かに……それなら説明がつく)
同じ一日をなぞっているのに、先輩だけ行動がちがっていたこと。
わたしの呼び方を間違えたのは彼のミスだ。
あのとき抱いた直感は実際その通りで、柊先輩には確かに記憶が残っていた。
変化を見逃すな、という御影の助言はこのヒントだったんだ。
そんなことを考えながら、ポケットから砂時計を取り出す。
目を疑った。
「え……?」
なぜか、薔薇が1輪減っている。
“昨日”、わたしは砂時計をひっくり返していないはずなのに。
もう1輪しか残っていない。
そう認識すると一気に焦りが湧き上がり、手どころか肝が冷えた。
「薔薇が……なくなってる。わたし、巻き戻してないのに」
震える両手で砂時計を握り締めながら言った。
気づいたら、もうあとがないところまで追い詰められている。
「悪ぃな、俺が代わりにひっくり返した」
「え……!? どういうこと? どうして?」
弾かれたように顔を上げる。
確かあのときは色のちがう砂時計を持っていた柊先輩が、それをひっくり返したはずだ。
そのお陰でこうして時間が戻ったのかと思ったのに、ちがうのだろうか。
うろたえるわたしとは裏腹に、彼は億劫そうに頭を搔いている。
「あー、これもまたデジャヴだ。まったく……」
そんな呟きに怪訝な気持ちが募った。
そういえば“昨日”も最後にそんなことを口にしていたような気がする。
「あのな、確かに砂時計はひっくり返した。薔薇も減っちまった。でも前提として、俺はおまえを助けてやったんだ。そこは誤解するなよ」
「どういうこと……?」
「おまえも見たと思うけど、あいつが持ってたあの砂時計は俺のやつとは別もんだ。あいつらが巻き戻して、あいつらの時間軸に閉じ込められたら、その砂時計は使えなくなる」
わたしの手元を顎先で示しながら言う。
「な、何それ……。それなら、やっぱり真白先輩の正体は悪魔なの?」
「いや、ちがう。言ったろ、もっと厄介でたちの悪ぃ存在だって」
「それって……」
「“天使”だよ」
はっと思わず息をのむ。
悪魔である御影とは対になるような、光の象徴そのもの。
だけど、わたしは一度、無惨にもそんな彼女に殺された。
慈悲や優しさの化身であるはずの天使が、どうしてそんな残酷なことをするのだろう。
どうして柊先輩に手を貸しているのだろう。
動揺しながら眉を寄せると、おもむろに立ち上がった御影が歩み寄ってくる。
「シュウは天使から砂時計を借りて、おまえと同じようにタイムリープを繰り返してる。すべては……妹を救うためにな」



