だけど、きっと郁実の選択も変わらないはず。
彼や真白さんがわたしに向けた殺意は、そのまま郁実が一身に背負うことになる。
脳裏が赤色に染まった。
目の前で繰り返された郁実の最期が、ずっと鮮明に焼きついている。
「……わたしも同じです。郁実を救いたい」
ただ死なせたくない一心であがいていたけれど、実情はもっと深くて複雑だった。
本当の意味でこの流れを断ち切らなきゃならない。
もう二度とわたしの代わりに命を落とすことがないように。
たとえ、ほかの何を犠牲にしたとしても。
気づかないうちに、ポケット越しに砂時計に触れていた。
その手にだんだん力が込もっていく。
「実は……わたしの砂時計、今回で終わりなんです」
そう告げると、柊先輩の表情が変わった。
衝撃を受けたように息をのんだものの、それが余裕や嘲笑に歪んでいく気配は微塵もない。
ただただ苦しそうにうつむく。
「……だとしても、きみや深山くんのために差し出せる命はないよ」
「はい、もちろん。そんなつもりじゃないです。でも……少しだけ時間をくれませんか」
いつになく不安気な彼の双眸をまっすぐ見つめる。
こうして柊先輩と話してみて分かった。
彼は敵じゃないし、積極的に喜んで殺意を肥やしているわけでもない。
だからこそいま、わたしと真剣に向き合ってくれたんだろう。
玲ちゃんのために殺したいだけなら、ここへ真白先輩も連れてきていたはずだ。
わたしと話すまでもなく、郁実に邪魔されないうちに手にかければよかっただけだから。
「放課後にもう一度話したいです。……それまでに決めるから」
“今日”の結末を。
そして、覚悟を。
郁実の強い決意と、柊先輩の揺るがない愛。
こじれた“今日”のシナリオに隠されていた真実を知った以上、わたしに逃げるという選択肢はなかった。
郁実自身から聞きたいこともあるし、もつれた頭の整理もしないと。
何を聞いても、最終的には割り切るだけかもしれないけれど、それでも。



