御影はこともなげに首肯してみせた。
まさか、本当に?
わたしが死ぬというシナリオは、郁実によって書き換えられていたの……?
衝撃に明け暮れて呆然としてしまう。
一方で、柊先輩はどこか腑に落ちた様子で「そうか」と呟いた。
「2回のタイムリープに巻き込まれてたわけか、俺は。一度目は、深山くんが砂時計を使ってきみを助けようとした。二度目は、きみが深山くんを助けようと……」
彼の言葉で真実の輪郭がいっそう明瞭になってきた。
最初の結末からタイムリープしたのは天使や柊先輩だったのだろう。
彼らはその後、わたしを死に追いやった。
それで正しい結末を迎えられたはずだったのに、なぜか時間が巻き戻ってしまった。
それが、郁実の仕業だった。
御影が否定しないということは、先に彼と契約していたのは郁実だったんだ。
わたしみたいに砂時計を受け取って、わたしを死なせないよう時間を巻き戻した。
きっと何度も救ってくれようとしたけれど、何度もわたしが死んでしまって、薔薇は減る一方だった。
ちょうどいまのわたしみたいに。
だから、最後に自分の意思で選んだんだ。
わたしの代わりに犠牲になる運命を────。
「妙だったんだよね。きみに紅茶を渡したときは仕留めたと思ったのに、死んだのは彼だったし」
「え……? まさか、あの紅茶も?」
郁実が血を吐いて倒れ、その上、工事現場の鉄骨の下敷きになったときのことが蘇ってきた。
あれは病魔が降って湧いたわけじゃない。
紅茶に何か毒となるものを入れられていたんだ。
『……実を言うと、もともときみにあげようと思って買ったんだ』
先輩は最初からわたしを殺そうとしていた。
ぞっとして、いまさらながら背筋が凍りつく。
あのとき、わたしは柊先輩と天使の両方から命を狙われていたということだ。
(郁実は知ってて、代わりに紅茶を飲んだ?)
毒入りだということも、先輩たちの目論見も、ぜんぶ分かった上で。
ふと、“昨日”の衝撃的なひと場面が蘇ってきた。
『何で? ねぇ、自分が何したか分かってる?』
『……ちがう。花菜、待って』
郁実は玲ちゃんの首を絞め、直接手にかけた。
あんなことをしたということは、きっと最初の“今日”に玲ちゃんが亡くなったことも知っていたんだ。
(郁実は郁実で、運命を元に戻そうとしたの……?)
わたしを死なせないために、守るために、悪者になることも厭わなかったんだ。
自分の死だって恐れずに。
足元がぐらついた。
わたしの知らないところで繰り返されていた攻防が、あまりにも残酷で。
いったい、どれほど強い覚悟だったんだろう。
「もういまさら、死人が出る運命は変えられねぇ」
おもむろに御影が立ち上がった。
声色に神妙さはなく、彼だけはやっぱり終始楽しんでいるみたい。
「けど、誰が死ぬか決まってもいない。俺は誰だって構わねぇからな。最後まで見届けてやる」
彼にとっては、正しい運命も本来のシナリオも関係ないのだろう。
わたしたちの選択に興味があるのか、わたしや郁実の魂が待ち遠しいのか。
いずれにしても、最後にどうなったって責めも褒めもする気はないんだ。
柊先輩は訝しげに眉を寄せ、そんな御影をじっと見やった。
「きみは……何者?」
むしろ正しい結末へ導くことを信念としている天使の主張とはあまりにもちがうから、彼がそう聞くのは当然と言えた。
「悪魔だよ」



