アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

 こちらに向けられる純粋な瞳。
 ラインアーサは、窓の方へ視線を逃がしながら呟く。

「……優しいな」

「え?」

「スズランは、誰にでも」

 淡々とした声。でも、その奥に混じるものがある。それが何か自分でも分かっていた。
 スズランは一瞬だけ戸惑う様な顔を見せ、すぐに首を振る。

「……違う。わたしは……ライアが思ってるような、そういう気持ちではなくて……」

 その否定にちくちく胸が痛む。

(分かってる)

 分かっているのに。
 沈黙。
 不意に、スズランが抱える書物から何かがひらりと落ちた。床に落ちたのは以前リーナから貰った小さな栞だ。互いに栞に目が行く。

「……」

 ほぼ同時に手を伸ばしたが、先に栞を拾い上げたのはラインアーサだ。
 何も言葉にしないまま二人の距離が空く。
 それでも迷いながらスズランが一歩だけ近づく。

「……一緒に、考えたいの」

 小さく。でも、まっすぐ胸に響く声。

「分からないことも、怖いことも……全部」

 僅かに震えている言葉に、ラインアーサは漸く視線を戻す。
 無理に笑顔を作ろうとしているが、今にも泣き出しそうなスズランの顔。その顔にラインアーサは如何に己が愚かでなのかを思い知った。独りよがりな欲で縛り付けたい訳では無いのだ。

(そんな顔をさせる為じゃあない……)

 迷いは消えた訳ではない。不安も、全部そのまま。それでも。