アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「アーサが迷うのは〝大事にしている証〟だからだ。それに、俺も何だか憎めないんだよな……ハリの事。なんて言うか、、尊敬してる先輩とちょっと雰囲気が似ててさ。あ、畏まるなって言ってたし、今まで通りハリでいいよな?」

 ジュリアンは少し砕けた口調で余韻を残し、距離を取る。そして「じゃあ、俺はここで」と明るく手を挙げながら廊下を外れた。

 部屋へ戻る廊下を並んで歩く。
 けれど、どこかぎこちない。

「……ハリさんのこと」

 先に口を開いたのは、スズランだった。
 静かな声。

「ハリの事?」

「怖いわけじゃ、ないの。でも……ハリさん、とても不安そうで」

 言葉を選ぶ様に、ゆっくりと。
 だがその一言で胸の奥が、僅かにさざめく。

(不安そう、か)

 ラインアーサは、何も言わない。いや言えなかった。

 そう見えるのか、そう感じるのか。
 それは、恐らく間違いではない。でも───。

(……なんで)

 自分でも気付かない、微かな棘が胸に刺さる。


 扉が閉まり部屋の中、ふたりきりの静寂が落ちる。スズランは少しだけ振り向いて微笑むが、ほんの少しぎこちない。

「……あの。借りてた本、ぜんぶ読んだの。持ってくるね」

 スズランは一旦自室へと入り、先日貸した小フリュイ公国の書物を胸に戻ってきた。

「貸してくれてありがとう。やっぱりまだ記憶は曖昧だけど、、小フリュイの事たくさん書いてあって、なんだか不思議な気持ちになったの」