アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「このスープ……少し、フリュイの味に似てるのかも」

「そうなのか?」

「うん。最近ね、ふとした瞬間……今みたいに、幼い頃の記憶が浮かぶことが多くなってきたの」

 あの日、ハリにかけられた仮死状態の魔像術(ディアロス)を解いた事がきっかけなのだろうか。

「じゃあ、十一年前のあの日……いや…」

「ごめんなさい、まだぜんぶってわけじゃ……」

「ああ、スズランはまだ幼かったもんな」

 スズランがシュサイラスア大国に来る以前となると、まだ幼い。記憶と言っても曖昧な筈だ。
 十一年前の〝自分と出会った日〟を思い出して欲しいだなんて───。

「でもフリュイにいた頃の感覚とか、両親の面影とか……何となくだけど掴めそうなの」

「だったら…! 以前書物庫から借りた、小フリュイ公国に関する書物があるんだ。スズランも読んでみる? 記憶の手助けになれば」

「ほんとう? ありがとうライア」

 ふわりと笑顔を向けられて、ラインアーサは嬉しくなる。食事を終える頃には、もう眠る時間になっていた。寝支度を整え、また明日に向けて。

「ちゃんと眠れそう?」

「うん、おなかもいっぱいで暖かい……」

「今日は色々あったもんな、ゆっくり休んで」

 スズランの寝室はラインアーサの寝室の扉から続きになっている為、支度を終えた二人はここで挨拶をする。
 スズランは扉の前で、借りた小フリュイ公国の書物を抱きしめながら、じっとラインアーサの瞳を見つめた。