アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

「……スズラン」

 甘く優しい声に、澄んだ瑠璃色の瞳を覗き込む。
 手が頬に触れ、そっと引き寄せられた。

 唇が触れる。ほんの短い、静かな口づけ。

「ん……」

 少し物憂げな声に、煌めく瞳を見つめる。
 睫毛を震わせ、ゆっくり瞼を閉じる素振りに煽られる。このまま甘い唇を───。
 しかし、扉が「コンコン」と二回程音を立てた。

「失礼いたします。お食事をお持ちしました」

 一瞬固まる二人。
 ラインアーサは目を閉じ、額を押さえた。

「……タイミングが良すぎるな」

「あ、えっと……!」

 スズランは顔を真っ赤にして、慌てて一歩下がる。ラインアーサは「どうぞ」と何事もなかったかの様に声をかけたが、彼の耳も少しだけ赤い。
 扉が静かに開き、サリベルが手押し車を押して入ってきた。

「あら……お邪魔でしたかしら」

「…! ち、ちがうの!」

 静かに察する大人の余裕のサリベルに、スズランが慌てて否定した。

「ふふ…、遅い時間ですので、胃に優しいものをご用意いたしました」

 そう言って並べられたのは、湯気の立つ温かなスープと小さな焼き菓子。

「少しですが、甘いものも。お好きでしたでしょう?」

「……昔のことなのに、覚えていたのか」

「ええ、もちろん。でしたらこれは余計だったかもしれませんね」

「いや、有難く頂くよ。スズランも好きだろう? 甘いの」

「う、うん」

「上手く誤魔化しても駄目ですよ。殿下は甘い物を見つけると、つい手が伸びますものね」