君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



───そんな思いで伸ばした手は、空中でピタリと固まった。


「────」


睨むわけでも、遠ざけているわけでもない。
ただ……それは、あきらかな線引きで。


まるで、
"これ以上こっちにふみこんでくるな"

────そう、警告しているようだった。




「………っ……」


(また、俺は…………)



────怖い。

目の前で、コイツを失うのが。

また、大切なナニカを奪われることが。



────憎い。

俺から"宝物"を奪う奴が。

それ以上に、見ていることしかできない、どうしようもなく情けない自分が。







もう、どうしたらいいのかわからなかった。

胸がぐちゃぐちゃに掻き回されて、カッと熱を持った思考はショート寸前だった。


(………待てよ、俺を置いて行くな)

そんな言葉にならない、どうしようもない思考が、ある記憶の断片と重なる。


『……待ってよ。俺を……置いていかないで………っ……』




出来ることなら今すぐにでも忘れ去りたい、忌まわしい記憶。


そのセリフが脳内で再生されたと共に───スッと、急激に体が冷えるのを感じた。




(………ああ、そうか。)


俺、なにも変われていないんだな。



喧嘩を学び、暴走族として頂点になってから……俺は"奪う側"になったと思っていた。




けれど────。

俺はずっと"奪われる側"、だったんだな……。









「─────ごめん、なさい」



色褪せた世界の中で、唯一色を失わない存在が遠ざかっていく────。


────俺はただ、それを見つめていることしかできなかった。