「………それで話は飛びますが、ココは、僕にとって思い出の場所であると共に、トラウマの場所でもあるんです。」
穏やかだったはずの声に、急に刺すような冷たさが混じる。
“思い出”という柔らかな響きを、無理やり押し潰すように出てきた“トラウマ”という言葉。
その瞬間まで胸にあった、わずかな温度が一気に引いていくのが分かった。
「………トラウマ?」
「…………はい」
ヒヤリ、と背中に冷たいものが落ちる。
踏み込んじゃいけない領域に、足を入れた気がした。
月明かりの下。
由良の瞳が一瞬だけ、鋭く色を変える。
さっきまでの柔らかさが嘘みたいに消えて、そこにあるのは“今ここ”じゃない景色を見ている目だった。
俺じゃない。
この海でもない。
もっとずっと前の、どこか血の匂いのする過去を見ている────……
「………………殺されたんです」
「は?」
一瞬、意味が追いつかなかった。
“殺された”という単語だけが、現実から浮いて宙に残る。この海岸の空気に、あまりにも似合わない言葉だった。
暴力なんて日常みたいに転がってる世界にいるはずの俺でさえ、思考が止まる。
笑い飛ばせる冗談の温度じゃない。
───こいつの目が、それを許さない。



