君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~




優しい記憶のはずなのに。
どこか遠くて、今のこいつとは違う世界の話みたいで。


チリ、と胸の奥が小さく焼けた。


「……………」

「それでまあ、蓮さんみたいに、実は僕も小さい頃はよくこの海辺に来ていたんです。」

「そうなのか?」

「はい。まあ、運悪く(?)一回も顔は合わせませんでしたけどね。」


クス、と自嘲気味に笑う。

その笑い方が、妙に胸に残る。


──マジかよ。


同じ場所にいた。
同じ風を浴びて。
同じ波を見ていたかもしれないのに。

少し時間が違えば。
ほんの少しだけ、出会う順番が違えば。

俺たちはもっと前から、隣にいた可能性があったってことか。



潮風が、やけに冷たく頬を撫でていく。

もし──

特攻服なんて着る前の。
ただのガキだった頃に、こいつと出会っていたのなら………。

俺たちは………今と同じ顔で、ここに立っていただろうか。


………それとも。

もっとずっと、簡単に笑えていたんだろうか。



静かにくりかえされる波の音だけが、答えのない問いを流し続けていた。