君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



まるでスローモーションみたいだった。

男の手が、ゆっくりと由良へ伸びていく。



俺はその場から動くことも出来ず、ただただその手先をジッと見つめていた。


届きそうで、届かない距離。
その数センチが、やけに遠い。



……なんだよ。
お前ら、一体どんな関係なんだよ。



「────」


由良の頭に触れる、その直前。

男の指先が、微かに震えた。


まるで、
触れてしまえば最後だとでもいうように。



そして――。

その手は、力なく落ちた。









店内の空気が、張り詰める。


「…………」

由良は俯いたまま、震えている。

ワンピースの袖を握り締める指先が、痛いほど強張っていた。



男も、何も言わない。
ただ、苦しそうに由良を見つめている。


……なんなんだよ。


その空気。
その距離感。

まるで、俺の知らない世界を二人だけで作ってるみたいで。



「……由良」


低く名前を呼ぶ。

さすがに、こっちを向くと思った。


けれど───由良は、俺を見ることなく小さく唇を震わせた。


「……っ、どうして……」


由良が、一歩後ずさる。


けれど男は追いかけない。

まるで、”自分にはその資格がない”とでも思っているみたいに。


……意味わかんねぇ。
なんでそんな顔するんだよ。

そんな顔、俺の前じゃ見せなかったくせに。



「由良、こっちに来い」


堪えきれず、由良の腕を掴もうと手を伸ばした────その瞬間だった。




「……っ、や……」


ビクリ、と由良の肩が跳ねた。

拒絶されたみたいで、一瞬息が止まる。


由良は怯えたように首を振りながら、ポロポロと涙を零した。



「ごめ、ごめんなさ……っ」


違う。
そうじゃない。

俺はお前を怖がらせたいわけじゃ――。