「っ」
その反応につられたように、向かい合って座っていた由良が、弾かれたようにガタッと音を立てて立ち上がった。
………なんだ?
「「……………」」
口を開かず、奥の席と入り口の方とで対角線上にお互いを見つめ合う二人。
………その異常な空気に、周りの席のやつらも食べる手を止め、二人に注目していた。
(…………なんだよ、コイツ)
由良は完全にそいつだけを見ていた。
俺なんか、視界に入ってないみたいに。
知り合いか……?
もしかしてコイツの…………。
「…………」
一瞬頭をよぎった二文字をかき消すように、思わず頭を軽く振る。
いや、そんな軽いもんじゃない。
もっと深い。
もっと強い何かで繋がっているような───。
しばらく、見つめ合いが続いた後………最初に視線を逸らしたのは、男の方だった。
まるで何事もなかったかのように振る舞う男に、由良の肩がふるっと震えた。
「………由良?」
俺の声なんか、届いていないかのように。
由良は、ゆっくりと一歩を踏み出した。
最初はゆっくりと。
徐々にスピードを早めて。
………気づいた時にはもう、駆け出していた。
────男のもとへ。
(…………待てよ。)
お前はなんで、いつも俺を置いて行く。
なんで……違う男のところに行く。
俺は………こんなにも、お前を求め……欲していると言うのに。
追いかけても届かない背中。
近いはずなのに、世界で一番遠かった。
「…………っ、」
はじかれたように立ち上がり、慌てて由良の後を追うように走り出す。
またあの夜……はじめて由良の"本当の姿"を見た聖夜のように。
また黙って見てるなんて、できねぇよ。
だから…………。
そんな俺の願いが届いたのか、由良は男の数十センチ前でピタリと足を止めた。
きゅっとワンピースの袖を握る、震える手。
………許せなかった。
由良が他の男を見てることじゃない。
そいつが、由良にとって特別な存在なことでもない。
俺にとって一番大事な女が――
こんなにも苦しそうな顔をしてることが。
(クソッ………)
俺が、震えるその背中に向かって声をかけようとした────その時。
そっと、男が由良に向かって手を伸ばした。

