横顔を見つめながら、胸の奥で燻る熱を必死に押し殺す。
………男だとか女だとか。
そんな境界線は、とっくに意味を失っていた。
俺の中にあるのはもう、理屈じゃない。
ただ、この目の前の"存在"そのものに、どうしようもなく引き寄せられているという事実だけだった。
………たとえこれが、誰にも祝福されない茨の道だとしても。
お前が呼ぶ“ゆう”という名前に、俺がなることはできないとしても。
───それでも。
夜風に揺れる髪に、そっと手を伸ばす。
壊れ物に触れるみたいに、慎重に。
指先に触れた感触が、やけに柔らかくて──逆に怖くなる。
報われない。
そんなの、とっくに分かってる。
それでも構わないと思ってしまう自分が、一番タチが悪い。
ただ、今は、この潮騒の中で。
こいつの隣に立っていられる………それだけでいい。
───そう思った、その瞬間だった。
「兄とはよく一緒に遊んだりして、僕のことを可愛がってくれたし、僕も兄のこと、大好きだったんです………」
静かな声が、波音に溶けていく。
その“好きだった”という言葉が、やけに胸に引っかかる。



