「実は僕、由宇(ゆう)っていう兄がいて、」
ぽつりと落ちたその声に、海の音が重なる。
由良の──いや、こいつの過去が、少しずつ形を持ちはじめる。
「…………」
耳には入ってきているのに、頭の奥でうまく処理できない。
…………彼は、本来ならば決して俺が踏み込んでいい相手じゃない。
性別とか、立場だとか、そういう話じゃなくて。
もっと単純に、“距離の取り方を間違えたら終わる場所”にいる気がした。
どれだけ気持ちを向けても。
どれだけ目で追っても。
返ってくるのは、同じ温度じゃない現実だけだ。
(……どっちみち、叶わねぇってか)
喉の奥で、乾いた笑いが浮かびかける。
はっ、と息が漏れる。
滑稽だ。
全国No.1を名乗る“月華”の総長が。
何百人を従えてきたこの俺が。
たった一人の──
地味で、影があって、どこか壊れそうな“男”に。
ここまで、心を持っていかれてるなんて。
……笑えるくらい、バカみたいだ。
なのに………。
やめられないのが、もっと質が悪い。
海風が、やけに冷たく頬を撫でていった。



