「お前………由良、だよな?」
喉がカラカラに乾いて、ようやくそれだけの言葉を絞り出した。
隣の花壇に座っていた男たちが、信じられないものを見るような目で俺と彼女を交互に見ている。
……いや、驚いてるのは俺も同じだ。
あの時、至近距離で見た素顔に「美形だな」くらいは思った。
男にしては出来すぎているとも思った。
………けど、さすがにこれは化けすぎだろ。
「はい」
短く、ぶっきらぼうに返された返事。
けれど、ふわりと風に舞った黒髪から漂うのは、いつもの煙草の匂いじゃない。
石鹸のような、もっと無垢で、胸の奥をざわつかせる甘い香り。
想像以上、なんて言葉じゃ到底足りねぇ。
膝上のスカートから伸びる、白くて細い足。
男装の時には隠されていた、しなやかな身体のライン……。
さっきまで「早く来ねぇかな」なんて能天気に待っていた自分を殴り飛ばしたい。
……周りからの羨望と好奇の視線が、痛いほど俺たちに突き刺さっている。
独占欲が、さっきまでの高揚感を塗りつぶして、どす黒い焦りに変わっていく。
「……やっぱり、無理がありますよね。すぐに着替えてきます」
俺の沈黙を「似合っていない」と勘違いしたのか、由良が気まずそうに視線を逸らして踵を返そうとする。
………その腕を、俺は反射的に掴んでいた。
「待て、ダメだ。……着替えに行かせるかよ」
こんな姿、他の誰にも見せたくねぇ。
今すぐ袋に詰めて家に持ち帰りてぇ。
………けれど、それ以上に、この”本当のお前”を俺の隣に置いておきたいという欲望が勝ってしまった。
俺は顔が熱くなるのを隠すように帽子を深く被り直し、立ち上がりかけた───その刹那。


