「これは依頼相手から直接要求されたことなんだが……なるべく近くから彼女のことを護衛してほしいそうだ」
(────なんて無茶な要求なんだろう)
話を聞いて真っ先に浮かんできたのは、そんな冷めた呆れだった。
こっちに対象の前に姿を現さない隠密護衛を指定したくせに、なるべく近くにいろ……なんて、言っていることが矛盾している。
……今回の依頼主は、相当ぶっ飛んだ思考の持ち主らしい。
絶対にまともじゃない。
それだけは断言できた。
「つまり……私に暴走族にも潜入しろ、と?」
「……相変わらず君は察しがいいな」
呆れ半分、諦め半分の私のつぶやきを拾った彼がフッと薄い笑みを浮かべる。
「流石に女相手では警戒して入れてもらえないだろうからね。……それで、男装なわけだ」
「そう、ですか……」
やっと、合点がいった。
男装なんて、まるで潜入捜査でもする時みたいだと思ったら。
……護衛任務なくせに、潜入もしなければいけないのか。
(面倒くさいな…………)
「組織イチの腕を持つ君だ。……この程度の仕事は、なんてことないだろう?」
「もちろんです。……この任務、必ずや成功させてみせます」
彼から感じる、薄っすらと皮肉が込められた、有無を言わせぬ気迫。
跪いた膝から、冷たいコンクリートの感触が伝わってくる。
(いったい私は、いつまでこんなことを続けれなければいけないのだろう。)
……そんな、途方もない虚無感を胸に。
最後に一礼を落とし、私は静かに部屋を後にした────……



