「………っ……」
心臓の鼓動がソファ越しに伝わってきそうで、私は慌てて距離をとった。
蓮さんはなぜかムスッとしてるけど……
潜入任務中の私に、こんな甘い空気は毒でしかない。
「そーいや、なんだっけ……バツみたいな記号の………」
………いや、急に話題変わりすぎでしょ。
”バツみたいな記号”……?
蓮さんの独特すぎるボキャブラリーに、一瞬脳内がフル回転する。
バツ……×……かける……あぁ。
────つまり、バツ=×=かける=翔(カケル)……と、いうこと?
「……翔のことですか?」
「あーそうそう。………で、ソイツ、お前のなんなの?」
――空気が、変わった。
さっきまでの緩さが一瞬で消える。
声のトーンが落ちて、視線が真っ直ぐになる。
逃げ道を探す前に、もう目が合っていた。
「……っ」
距離が、また近い。
さっきよりも、もっと近い。
……お互いの呼吸が混ざりそうなくらい。
「なにって………それ、蓮さんに関係あります?」
気づけば、少しだけ強い声が出ていた。
言った瞬間、自分でも分かる。
これは正しい答えじゃない。
でも、これ以上踏み込まれたくなかった。
秘密を守るためじゃなくて。
――この人に、これ以上“知られたくない”と思ってしまった。


