さっきまで、確かに俺たちは、この世界に二人きりだったはずなのに。
潮騒も。
灯台の光も。
夜の冷たさも。
………全部が、俺と由良だけのものみたいに感じていた。
なのに。
この“カケル”とかいうガキが現れた瞬間。
俺と由良の間にあった空気は、まるで霧みたいに一瞬で消えた。
代わりに築かれていく、透明な壁。
俺には踏み込めない距離。
二人は、俺の知らない言葉で。
俺の知らない時間を共有している。
その事実だけで、胸の奥がざわついた。
それに──
(……コイツ、こんな声で話すのか)
不意に、そんなことを思う。
今まで俺たちの前で使っていた、わざと低く作ったみたいなくぐもった声じゃない。
もっと澄んでいて。
もっと自然で。
鈴を転がしたみたいに、凛としているのにどこか冷たい。
……その声が、やけに耳に残る。
聞けば聞くほど、胸の奥がざわついて落ち着かなくなった。
(……女、みてぇだな)
そこで、ふと。
脳裏に一筋の光が走る。
……待て。
由良が、“女”って可能性はないのか?
心臓がドクン、と嫌なほど大きく鳴った。
男にしては細すぎる身体。
肩を抱いた時に感じた、あの壊れそうな骨格。
白くて、柔らかかった肌。
それに──
喉仏。
男なら、あるはずだ。
────けれど。
月明かりに照らされた由良の首筋には、それらしい膨らみが見当たらない。
心臓が、また別の意味で跳ね上がる。
もし、もしも由良が女だったとしたら。
俺の中に渦巻いているこの感情は。
“間違い”なんかじゃなかったことになる。
さっきまで、“叶わない恋”だと自嘲していた自分を殴り飛ばしたくなるくらいの希望。
ありえないほど熱い感情が、一気に胸を駆け上がる。
視線が離せない。
縋るみたいに、俺は由良を見つめ続けた。
────すると。
その熱を帯びた視線に気づいたのか───


