君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

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「……すみません、取り乱しちゃって」

「いや、別に………」


伏せられた瞼。
長い睫毛が月光を拾って、淡く白く光っている。

気まずそうに揺れる細い指先。
その仕草ひとつひとつが、やけに目について離れない。


……こんなの、ずるいだろ。

胸の奥が、さっきからずっと落ち着かない。
熱が引くどころか、むしろ一方的に増していくみたいだった。


でも、その熱の奥で。
現実だけが、やけに冷たく刺さってくる。



「なんでああなったか気になりますよね。ちょっとだけ、話を聞いてもらえますか……?」

「……ああ」


返事をした声が、まるで自分のものじゃないみたいに重い。



(……コイツは男、だ)

理性が、耳の奥で何度も繰り返す。


どれだけ綺麗でも。
どれだけ柔らかく見えても。
どれだけ今、目の前で弱さを見せていても。

俺が抱き寄せかけた相手は。
さっき、この手を掴んだのは。


──“男”だ。


そう思った瞬間、胸の奥が妙にざわつく。


否定したいわけじゃない。
でも、納得できないまま………感情だけが先に進んでいく。



「実は僕、由宇(ユウ)っていう兄がいて、」


ぽつりと落ちたその声に、海の音が重なる。

由良の──いや、こいつの過去が、少しずつ形を持ちはじめる。



「…………」


耳には入ってきているのに、頭の奥でうまく処理できない。


…………彼は、本来ならば決して俺が踏み込んでいい相手じゃない。

性別とか、立場だとか、そういう話じゃなくて。
もっと単純に、“距離の取り方を間違えたら終わる場所”にいる気がした。


どれだけ気持ちを向けても。
どれだけ目で追っても。

返ってくるのは、同じ温度じゃない現実だけだ。


(……どっちみち、叶わねぇってか)

喉の奥で、乾いた笑いが浮かびかける。

はっ、と息が漏れる。

滑稽だ。


全国No.1を名乗る“月華”の総長が。
何百人を従えてきたこの俺が。

たった一人の──
地味で、影があって、どこか壊れそうな“男”に。

ここまで、心を持っていかれてるなんて。


……笑えるくらい、バカみたいだ。


なのに………。
やめられないのが、もっと質が悪い。




海風が、やけに冷たく頬を撫でていった。