君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

─── ♠ ───






「………あ、やっと来た~」


ブンブンと大きく手を振る旭。


「おせーよ」

「……って、毒はきながらも、口元がニヤけてますけどね。やれやれ、ツンデレはこれだからほっとけません………」

「っ……うっせ」


レンさんは不機嫌そうに鼻を鳴らしたけれど、その瞳は優し気に揺れていた。
私が来て、安堵したのだろうか……。


「………蓮さん」

「あ?……なんだ?」

「僕、蓮さんに言われたとおりにちゃんと来ましたよ……?」

「は?……あー、ああ」


しばらくして何かにピンときたらしいレンさんは、気まずそうに視線を逸らしながら、口元を隠すように右手を添えた。
私が”命令”を守ったことが、そんなに意外で、……そんなに嬉しいのだろうか。


「もしかして………照れてます?」


私はわざとらしく首をかしげ、少し意地悪に彼の瞳をのぞき込んだ。
エージェントとしての計算半分、そして──ほんの少しの好奇心半分で。


「は?んなわけ………」

「「「照れてる(ます)ね」」」



「ばっ………!!!!」

「由良、聞いてよー。最近のコイツね、由良の話しかしないんだよー」

「へっ?」

「ち、違っ………」


カッとレンさんの顔が、夕焼けよりも鮮やかな朱に染まる。


「口を開けば由良由良由良~ってな」

「昨日だって、由良がちゃんと来るかどうか心配で、何度も携帯チェックしてたくせに………」

「まっ、待てっ……お前ら、余計なこと喋るんじゃねぇ……っ///」


レンさんの慌てぶりは、周囲が呆れるほどに純粋だった。

私を仲間に引き入れ、光の中に導こうとしている彼ら。
………その中心にいるレンさんが、偽物の私一人の動向にこれほどまで心を掻き乱されている。



………そんな風に真っ直ぐに私を見られたら、バックれようとしていた自分が、酷く薄汚れた存在に思えてくる。









「…………でもさぁ、それってまるで……”恋する乙女”じゃない?」


旭の軽薄そうな、けれど核心を突くような言葉が、深夜の空気の中に放り投げられた。

その場にいた全員の動きが、まるで見えない糸で操られたようにピタリと止まる。



「「「「はっ?」」」」

「おいコラ、旭、てめー何言って……」

「だって、蓮ってばヒマさえあれば由良のこと考えてんでしょ?…………それってさぁ、もう恋じゃないの?」

「「「「…………」」」」


「─────」


沈黙。


当の本人はといえば、顔の赤みが一気に引いたかと思えば、次の瞬間には爆発したような熱を持って、ぶるぶると震えだしていた。

……その反応は、否定というにはあまりに余裕がなさすぎる。