「由良、お前………思った以上にアイツに気に入られてるんだな」
シン、と静まり返った部屋に、ぽつりとつぶやいた陽人の声がやけに響いた。
レンさんが出ていった後の重い余韻を、その一言が塗り替えていく。
「────え?」
気に入られてる………?
私、が………?
まさか………。
彼はただ、新入りの教育に熱心なだけか、あるいは桃華さんとの仲を疑って監視したいだけだと思っていたのに。
「ええ、確かにそうですね。………出会ってからもう十年の付き合いになりますが、蓮のあんな真剣な表ははじめて見ました。」
李兎さんが眼鏡のブリッジを押し上げながら、淡々と、けれど確信を持って告げる。
「そーそー。アイツ、ツンデレだからさ、態度は悪いけど……それだけ仲間思いなんだよね」
「由良、君は……蓮の、お気に入りなんだよ」
"出会って間もない君に、僕たちの知らない蓮を簡単に知られて、ちょっと妬いちゃうなあ"
………と、複雑な顔で、眉を八の字にして困ったように笑う大晴さん。
その言葉に含まれた純粋な”親愛”が、私の胸をチクリと刺した。
「…………」
………私、思ったより"レンさん"に気に入られてる……?
その事実に、胸の奥がわずかに温かくなるのを感じて──すぐに、それを冷徹な理性でかき消した。
別に嫌な気はしない。
けれど、私には彼らを”騙している”という後ろめたい事情があるから………。
私の名前も、過去も、性別さえも、すべては任務のために用意された精巧な偽物だ。
貴方は……もし、真実を知った時にどんな顔をするんだろう。
裏切られたことに呆然として、その場に固まる……?
それとも、騙された自分への情けなさに絶望して、激しく怒り狂う……?
それとも────。

