君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



ヒュッ、という鋭い風切り音。


顔の横スレスレを、何かが猛スピードで通り過ぎていった。



「凪(ナギ)……?」


チラリと後ろを振り返れば、そこには胸にナイフが刺さった、ガタイのいい男が倒れていて。




「…………」


無言のまま、凪が倒れた男の体を無造作に踏みつける。



───ほんと、可哀想。
私たちに近づいたその時点で、その人生は全て終わってるのに。



そんなことを考えながら、私と紘は──。


無惨な形に変わっていく敵を、ただ、冷たい目で見つめていた。









「終わったよ」



フッと、目の前に影が落ちた。


顔を上げると、由良(ユラ)が静かに私を見下ろしていた。

そのブラウンの瞳が、ゆっくりと私を映す。



「だいじょうぶ? 怪我してない……?」


そっとその顔を覗き込んで、再び同じ質問を口にする。


「うん」


ふわり、と由良の腕に抱きしめられる。



安心する香り。

……なのに、その腕からは微かに血の匂いがした。


もう、慣れてしまったその匂いに。
私はそっと、瞼を伏せた。