君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~

♠ Yui


「……っ、やめ──」

それ以上は、もう声にならなかった。


ピチャン、と紅の海に波紋が広がる。


目の前には無残な姿で地面に転がる数人のスーツ姿の男たち。
そして、それを絶対零度の瞳で見下ろす”闇の絶零帝”───。



………ツンと鼻を突く血の匂いの中、私はその胸に飛び込んだ。


「紘(ヒロ)っ、」

「………由衣(ユイ)?」


私を映した漆黒の瞳から、スッと険が取れる。
急に甘く、熱を帯びるその温度。



私は、どこか寂しげな彼の背中に手を回し、力を込めて抱きしめた。


「大丈夫?怪我、してない?」

「んーどうだろ………」

「ここ、血か出てる………」


わずかに血が滲んでいる唇を、指先でそっと辿る。
すると、冷たかったはずの薄い唇が、ゆっくりと弧を描いた。



「…………じゃあ、由衣が癒して?」


その言葉が、耳元で甘く響いた次の瞬間──。
ふわりと重なった、冷たい唇。


けれど、それは一瞬で溶けるような熱に変わっていく。



「…………ん、っ」


お互いの体温を確かめるように、さらに深く、唇を重ねようとした──その時だった。








「はい、油断大敵~」