「私が欲しい? 正直、耳を疑ったわ。オスカー愛しているからこそ、相手を尊重するべきでしょ。私は貴族令嬢で娼婦ではないのよ。自分の不安? そんな身勝手な気持ちを満たす為に私の尊厳を踏み躙るつもり?」

生まれて初めてオスカーを責めるような言葉を発した。彼と私が生きる為に必死に立ち回ってるのに、彼は情欲に支配されているのだろう。年頃の男の子だから仕方がないと回帰前の記憶がない私なら受け止められたが、今の私には余裕がない。

「そんなつもりはないよ。僕はただ君が好きなだけ」
オスカーが揺れる瞳で呟いたところでオーケストラの演奏が終わる。

ふと背中から視線を感じる。鮮やかなグリーンの礼服に身を包んだフレデリック。彼とは舞踏会で踊る約束をしていた。

二曲目の演奏をしようと指揮者が腕を振り上げる。
(あぁ、行かなきゃ)

「シェリル」
当たり前のように二曲目を踊ろうと手を差し伸べるオスカー。

私はその手に気が付かないフリをしながら、フレデリックに近付いた。
わざわざ遠路はるばる来て、私との約束を守ってくれた彼。私も彼と踊る約束を当然守るべきだ。

フレデリックが私を目にするなり、跪く。