「少し出発を待ってちょうだい」
私はユリシスと無表情のフレデリックを馬車の中に置いて一度外に出る。

この場で私には片付けておきたい事があった。
「アベラルド王国、近衛騎士団長、ランスロット・オベール!」
私がバロン帝国のスパイだった男の名を呼ぶと、男は私を睨みつけた。

「シェリル嬢、何か御用ですか?」
私を王太子妃と呼ばない彼は結婚証明書の盗難にも加担してそうだ。

「オベール卿、貴方はこの国を追放します。二度とこのアベラルド王国の地を踏まないでください」
「シェリル嬢、そのような命令を出す権利は貴方にはありませんよね。何故、忠臣だった私が裏切ったのか理由を聞きたくありませんか?」

ニヤリと笑うランスロットをこのままアベラルド王宮に返してはいけない。おそらく彼と同じようにアベラルド王国を裏切っている騎士はいる。彼が戻って他の裏切り者に指示を与える隙は作ってはいけない。

「裏切る騎士など、剣が触れる蛮族と代わりません。王国には必要ないわ」
「お前のせいだよ! シェリル・ヘッドリー! お前が殿下の婚約者になってから全てが狂ったんだ」