「うちはちゃんと役目果たしたからな。あとはあんた次第や」
舞台から降りた桃先輩は、すれ違う瞬間そう耳打ちした。
わたしは静かにうなずいて一歩踏み出す。
桃先輩のおかげで、良い具合に期待値が高まっている。
鼓動が早まるのを感じながら壇上に上がったわたしは……ゆっくり、眼鏡を外した。
──お姉に演技指導をしてもらっているとき、こんなことを言われた。
『実を言うとね、正直私も演技は向いてないみたいですっごく苦労したんだ。他の人格になるってイメージが全くできてなくて。だから私の場合は、完全に自分と別人になることは諦めて、演じる人物のことを"今と違う環境で育った場合の自分"だと考えることにしたの』
お姉が舞台で演じたのは、恋に憧れているけど自分に自信がない平凡な女子高生の役だった。
モデルの原麗華とは共通点らしきものが見当たらないし、これだけの美少女なのだからたとえ違う環境で育ったとしても、役のような平凡な女子高生にはならなかっただろう。
だけど、「こうなったかもしれない」と思えるだけで良かったそうだ。



