桃は言い返してこなかった。代わりに、唇を噛みながら力なくうつむいている。
そして数十秒、もしくは一分程度の沈黙の後、ぽつりと言った。
「……あの子のことが気に入らんのは確かやけど、別に大怪我させたろうとか、ましてや殺してしまおうとか思ってたわけやない」
それは紛れもない自白。
深い考えなんてものはなかったのだ、と語る。
ただ、原路留という人間のことでずっとストレスが溜まっていた。目障りで仕方がなかった。
そんな中で、あの日ふらふらしながら階段を下りようとする路留を偶然見かけたのだ。
目の前にいるストレスの要因。周りに人は誰もいない。
……そう思うと無意識のうちに手が伸びていた。
しかし思った以上に勢いよく階段を転がり落ちていった上にそのまま起き上がる気配がないので、我に返って焦り、職員室へ知らせに行こうとしたものの。
自分がとんでもないことをしてしまったと知られるのが怖くて、匿名で通報するという形にしてしまった。
それが事の顛末らしい。



