ドキドキソワソワの平日を過ごし、金曜の夜がやってきた。

(新海さん、ほんとに迎えに来るのかな。何時に? どこまで?)

仕事中もスマートフォンを気にするが、高良からの連絡はない。
半信半疑で仕事を終わらせると、時刻は17時になっていた。

「じゃあね、美蘭。明日のプラージュの挙式よろしくね」
「うん。お疲れ様、未散ちゃん」

帰り支度をした未散は、最後に「ん?」と美蘭を振り返った。

「美蘭。顔が赤いけど、熱でもあるの?」

心配そうな未散に、美蘭は慌てて首を振る。

「ないよ、熱なんか全然ない」
「それもそれで怖いでしょ。36度はないと」
「ある、それなら全然ある」
「……なんか変だな。美蘭、頭は?」
「おかしくないよ!」
「いや、おかしいけど。まあ、熱がないなら大丈夫か。じゃあね、また来週」
「はい、さようなら!」

そそくさと見送ると、パタンとドアを閉める。
はあ、と肩の力を抜いた時、スマートフォンの着信音が鳴った。

ひえっと再び肩に力が入る。
急いで確認すると、高良からメッセージが届いていた。

【お疲れ様。これからそっちに向おうと思う。仕事は終わった?】

ほんとに来るんだ!と思いつつ、すぐさま返事を打つ。

【はい、終わりました。お待ちしています。どうぞお気をつけて】
【ありがとう。じゃあ、あとで】

ふう、と息を吐いてから、美蘭はまたハッとした。

「大変! なにも準備してない!」

バタバタと慌てて支度を始める。
じっくり洋服を選ぶ時間もなく、クローゼットから適当にワンピースを取り出して着ると、メイクをしてから髪をヘアアイロンで巻いた。

「挙式の準備もしなきゃ!」

明日の挙式の書類や持ち物を、仕事用のスーツやパンプスと一緒にバッグに詰める。

「えっと、あとはなに? あ、着替え!」

高良に言われていたことを思い出し、深く考えずに下着や化粧水などのお泊りセットも用意した。

「これで大丈夫かな」

確認しているとスマートフォンに電話がかかってきた。
思わずビクッとしてから表示を見る。

「新海さん! まさか、もう着いたの?」

そう思いながらとにかく電話に出た。

「もしもし」
『美蘭? アトリエの前の道路にいる。もう出て来られる?』
「はい、今行きます!」

戸締りをして電気を消すと、美蘭は玄関でブーツを履き、バッグを持って外に出た。