桜が舞い散る四月。菜月は二年生になっていた。
「菜月ちゃん、新入生の案内お願いね」
お茶部の部長の麻美先輩(今は四年生)が声をかけてきた。
「はい、任せてください」
菜月は一年生の女の子を部室に案内していた。
「えーっと、ここがお茶部の部室やて」
「『やて』?」新入生が首をかしげた。
「あ、ごめんなさい。福井の方言で、『です』という意味です」
「可愛い言い方ですね」
「ありがとうございます」
菜月は笑顔で答えた。もう方言を恥じることはない。
◆部室で◆
「あ、菜月ちゃん!」
さくらが駆け寄ってきた。さくらも二年生になり、すっかり明るさを取り戻していた。
「さくらちゃん、お疲れさま」
「新入生の子、可愛いですね」
「そっけやの」
二人は笑い合った。さくらはもう、菜月への恋心を乗り越えていた。時々まだ胸が痛むこともあるけれど、大切な友達でいられることに幸せを感じている。
「あ、そうそう」さくらが言った。
「実は私、彼氏ができました」
「ほんまに?!」
「うん、他学部の人なんだけど」
「良かった、さくらちゃん!」
菜月は心から喜んだ。
「菜月先輩と圭介先輩を見てて、私も恋愛頑張ろうって思ったんです」
「ありがとう」
「でもね」さくらが少し照れながら言った。
「菜月先輩のことは、やっぱり特別だと思ってます」
「私も、さくらちゃんのこと大好きやて」
二人は抱き合った。
◆バイト先のサニーテーブルで◆
夕方、菜月はいつものようにバイトに出ていた。
「いらっしゃいませ!」
元気な声で客を迎える。もう方言で失敗することも少なくなった。標準語と福井弁、うまく使い分けられるようになっていた。
「菜月ちゃん、5番テーブル、圭介先輩よ」
佳乃がにやりと笑いながら言った。
「え?また来たがけ?」
菜月が振り返ると、圭介が座っていた。
「こんにちは、菜月さん」
「圭介先輩、今日は京都から来てくれたがですか?」
「はい、菜月さんの顔が見たくて」
周りのお客さんが微笑ましそうに見ている。
「ご注文は?」
「いつものオムライスを」
「かしこまりました」
菜月が厨房に注文を通すと、田村店長が笑っていた。
「菜月ちゃん、彼氏また来たの?」
「はい、遠距離やけど、よう来てくれるがです」
「いい彼氏じゃない」
「ほやの」
菜月は幸せそうに笑った。
◆休憩時間、店の外で◆
「お疲れさまです」
圭介が待っていてくれた。
「圭介先輩、いつもありがとうございます」
「いえ、会いに来るのが楽しみなんです」
二人は並んで歩いた。
「あのね、圭介先輩」
「はい?」
「私、最近気づいたことがあるがやて」
「何ですか?」
「方言と標準語、両方使えるようになって、世界が広がった気がするがよ」
「素晴らしいですね」
「標準語で話すと、色んな人と話せる。でも、福井弁で話すと、故郷とのつながりを感じられる」
圭介が菜月の手を握った。
「菜月さんは本当に成長しましたね」
「圭介先輩のおかげやて」
「いえ、菜月さん自身の力です」
「あれ?菜月?」
後ろから聞き覚えのある声。
振り返ると、悠真が立っていた。
「悠真!どうしてここに?」
「仕事の研修で東京に来たがよ。ちょうど菜月のバイト先の近くやったから」
「そうなんけ!」
圭介が悠真に挨拶した。
「お久しぶりです、悠真さん」
「ああ、圭介さん。お久しぶりです」
二人は握手した。少し気まずい雰囲気。
「あの、二人とも…」菜月が慌てた。
「大丈夫です」圭介が笑った。「悠真さんとはライバルじゃなく、菜月さんを大切に思う者同士ですから」
「そうやな」悠真も笑った。「俺、もう吹っ切れたし」
「ほんまに?」菜月が心配そうに聞いた。
「おう。実は俺も、地元で気になる子ができたがよ」
「ほんまに?!」
「うん。だから、菜月も幸せになってくれ」
悠真の笑顔は、もう寂しくなかった。
「ありがとう、悠真」
三人で少し話をした後、悠真は去っていった。
「良かったですね」圭介が言った。
「うん」
菜月は安心した。悠真も前に進んでいる。
◆夜、一人の部屋で◆
未来がいなくなって、もうすぐ一年。部屋は今でも一人部屋のままだった。
携帯を見ると、未来からメッセージが来ていた。
『菜月ちゃん、元気?私、来月東京に戻ることになったよ。また会えるね』
菜月は飛び上がって喜んだ。
「ほんまに?!」
すぐに電話をかけた。
「もしもし、未来ちゃん?」
「菜月ちゃん、久しぶり」
「ほんまに東京に戻ってくるがけ?」
「うん、家族の事情が解決して。大学にも復学できることになったの」
「嬉しいやて!」
「私も嬉しい。菜月ちゃんに会えるの、楽しみ」
「私も!」
「あのね、菜月ちゃん」
「うん?」
「私、もう大丈夫だから」
「え?」
「菜月ちゃんへの気持ち、ちゃんと整理できた。これからは本当の意味で友達でいられる」
「未来ちゃん…」
「だから、安心して。変に気を遣わないでね」
「ありがとう、未来ちゃん」
電話を切った後、菜月は涙が止まらなかった。
嬉しい涙だった。
◆翌週、未来との再会◆
駅のホームで、菜月は未来を待っていた。圭介とさくらも一緒だ。
「来た!」
未来が大きな荷物を持って降りてきた。
「未来ちゃん!」
「菜月ちゃん!」
二人は抱き合った。
「会いたかったやて」
「私も」
未来が圭介に挨拶した。
「圭介さん、お久しぶりです」
「お帰りなさい、未来さん」
「菜月ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「はい、必ず幸せにします」
さくらも未来に近づいた。
「未来さん、お帰りなさい」
「さくらちゃん、久しぶり。元気そうね」
「はい、おかげさまで」
二人は意味深な笑顔を交わした。同じ想いを抱えていた者同士、分かり合えるものがある。
◆カフェで四人で◆
「じゃあ、乾杯!」
四人でジュースで乾杯した。
「未来ちゃんが戻ってきて、本当に嬉しいやて」
「私も嬉しい」
「それで、これからどうするの?」圭介が聞いた。
「大学に復学して、また勉強頑張る。それから…」
未来が菜月を見た。
「また菜月ちゃんのルームメイトになりたいんだけど」
「ほんまに?!」
「うん、ダメ?」
「ダメなわけないやて!嬉しい!」
さくらが笑った。
「良かったですね、菜月先輩」
「うん、めっちゃ嬉しいやて」
◆その時、予想外の展開◆
カフェのテレビで、福井のニュースが流れていた。
「え?これ、おばあちゃんの店?」
画面には、菜月のおばあちゃんの和菓子店が映っていた。
『福井の伝統和菓子を守り続ける老舗』というタイトル。
「おばあちゃん、テレビに出とる!」
菜月は慌てて携帯を取り出した。
「もしもし、お母さん?おばあちゃん、テレビに…」
「見たけ?すごいやろ?」
母の声が興奮していた。
「おばあちゃん、全国ネットのニュースに出たがよ」
「ほんまに?」
「うん。菜月が東京のお茶部で福井の和菓子を広めてくれたおかげで、取材が来たがやって」
「私のおかげ?」
「そうや。菜月が頑張ってくれたおかげや」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「お母さん…」
「菜月、ありがとうな」
電話を切った後、みんなが拍手してくれた。
「すごいじゃない、菜月ちゃん」未来が言った。
「菜月さんの努力が実ったんですね」圭介が微笑んだ。
「菜月先輩、かっこいいです」さくらが目を輝かせた。
「みんな、ありがとう」
菜月は幸せで涙が止まらなかった。
◆夕方、圭介と二人で◆
「菜月さん、今日は本当に良い日でしたね」
「うん、嬉しすぎて信じられんやて」
二人は夕日を見ながら歩いていた。
「あのね、圭介先輩」
「はい?」
「私、一年前は方言がコンプレックスやったがやけど、今は誇りに思えるようになった」
「素晴らしいですね」
「それも、圭介先輩や、みんなのおかげやて」
圭介が立ち止まって、菜月の顔を見た。
「菜月さん、愛してます」
「私も、愛してます」
二人は抱き合った。
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「もちろんやて」
菜月が笑った。
「あ、また方言が」
「いいんです。菜月さんの方言、大好きですから」
◆その夜、寮の部屋で◆
「ただいま」
「お帰り」
未来が温かいお茶を入れてくれた。
「未来ちゃんが戻ってきて、本当に嬉しいやて」
「私も。やっぱりこの部屋が一番落ち着く」
二人は並んでベッドに座った。
「ねえ、菜月ちゃん」
「うん?」
「菜月ちゃんと過ごした一年間、私の宝物だよ」
「私も」
「これからまた、一緒に色んなこと経験しようね」
「うん」
二人は笑い合った。
◆数日後、お茶部での出来事◆
「みなさん、発表があります」
麻美部長が言った。
「来月、全国お茶会コンクールがあります。うちの部も出場することになりました」
「ほんまですか?」菜月が目を輝かせた。
「はい。そして、菜月ちゃんに代表を務めてもらいたいんです」
「え?私が?」
「あなたが一番ふさわしいわ。福井の伝統も知っているし、お茶の心も理解している」
「でも…」
「大丈夫やて」さくらが励ました。
「みんなでサポートするから」
◆コンクール当日◆
会場には全国から大学のお茶部が集まっていた。
「緊張するやて」
「大丈夫ですよ、菜月さん」
圭介が応援に来てくれていた。悠真も、未来も、佳乃も、田村店長も。
そして驚いたことに、母とおばあちゃんも福井から来てくれていた。
「お母さん、おばあちゃん!」
「菜月、頑張りや」
「応援しとるで」
菜月の目に涙が浮かんだ。
◆お点前の実演◆
菜月は静かにお茶を点て始めた。
おばあちゃんに教わった通りの美しい動作。
そして、審査員にお茶を差し出す時、自然に言葉が出た。
「どうぞ、召し上がってくださいの」
福井弁が出てしまった。しまった、と思った瞬間。
審査員が微笑んだ。
「温かい言葉ですね。どちらの方言ですか?」
「福井です」
「素晴らしい。お茶の心と、故郷への愛が伝わってきます」
菜月は安心して、続きを披露した。
◆結果発表◆
「優秀賞、東京◯◯大学」
会場に拍手が響いた。
「やったやて!」
菜月は飛び上がって喜んだ。
みんなが駆け寄ってきた。
「おめでとう、菜月ちゃん!」
「すごいやん、菜月!」
「よくやったな」
みんなの笑顔に囲まれて、菜月は幸せで涙が止まらなかった。
◆夜、打ち上げパーティーで◆
「菜月、本当におめでとう」
母が涙を流しながら抱きしめてくれた。
「お母さん、来てくれてありがとう」
「菜月の晴れ姿、見られて嬉しかったわ」
おばあちゃんも近づいてきた。
「菜月、よう頑張ったの」
「おばあちゃんのおかげやて」
「いいや、菜月の努力や」
圭介が菜月の隣に来た。
「お母様、おばあ様、菜月さんをお借りしてよろしいですか?」
「ええよ」母が笑った。
「大切にしてやってくださいね」
「はい、必ず」
◆会場の外、夜景の見える場所で◆
「菜月さん」
「はい」
「今日、改めて思いました」
「何を?」
「菜月さんは、本当に素晴らしい人だと」
圭介が菜月の手を取った。
「方言も、故郷への愛も、全部が菜月さんの魅力です」
「圭介先輩…」
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「はい」
二人は抱き合った。
その時、後ろで拍手が聞こえた。
振り返ると、さくら、未来、悠真、佳乃、みんなが笑顔で見ていた。
「お似合いやん」悠真が笑った。
「幸せになってね」未来が微笑んだ。
「ずっと応援してます」さくらが涙を拭いた。
菜月は恥ずかしくて、でも嬉しくて、また泣いてしまった。
数ヶ月後。菜月は故郷の海岸に立っていた。
圭介が隣にいる。
「懐かしいですね」
「うん、この場所、悠真とよう来たがよ」
「良い場所ですね」
「圭介先輩、ありがとう」
「何がですか?」
「私の方言を、故郷を、全部大切にしてくれて」
「当たり前です。それが菜月さんですから」
二人は手を繋いで、波打ち際を歩いた。
「あのね、圭介先輩」
「はい」
「私、気づいたがやて」
「何を?」
「『あの町の言葉』と『この町のわたし』、両方を持つことができるって」
「素晴らしい気づきですね」
「故郷の言葉を話しても、東京のわたしは消えない。東京で標準語を話しても、故郷のわたしは消えない」
圭介が菜月を抱きしめた。
「菜月さんは、両方を持つ、素敵な人です」
「ありがとう」
夕日が二人を優しく照らしていた。
菜月は思った。
これまで色々なことがあった。
方言で失敗したり、誤解されたり、恋愛で悩んだり。
でも、全部が自分を成長させてくれた。
そして、大切な人たちに出会えた。
圭介先輩、さくら、未来、悠真、佳乃、お茶部のみんな、バイト先のみんな。
そして、いつも応援してくれる家族。
「みんな、ありがとう」
小さくつぶやいた。
「これからも、自分らしく生きていく」
「方言も、故郷も、東京も、全部大切にしながら」
圭介が菜月の頬にキスをした。
「愛してます、菜月さん」
「私も、愛してます」
二人は笑い合った。
そして、新しい明日へ向かって歩き出した。
「菜月ちゃん、新入生の案内お願いね」
お茶部の部長の麻美先輩(今は四年生)が声をかけてきた。
「はい、任せてください」
菜月は一年生の女の子を部室に案内していた。
「えーっと、ここがお茶部の部室やて」
「『やて』?」新入生が首をかしげた。
「あ、ごめんなさい。福井の方言で、『です』という意味です」
「可愛い言い方ですね」
「ありがとうございます」
菜月は笑顔で答えた。もう方言を恥じることはない。
◆部室で◆
「あ、菜月ちゃん!」
さくらが駆け寄ってきた。さくらも二年生になり、すっかり明るさを取り戻していた。
「さくらちゃん、お疲れさま」
「新入生の子、可愛いですね」
「そっけやの」
二人は笑い合った。さくらはもう、菜月への恋心を乗り越えていた。時々まだ胸が痛むこともあるけれど、大切な友達でいられることに幸せを感じている。
「あ、そうそう」さくらが言った。
「実は私、彼氏ができました」
「ほんまに?!」
「うん、他学部の人なんだけど」
「良かった、さくらちゃん!」
菜月は心から喜んだ。
「菜月先輩と圭介先輩を見てて、私も恋愛頑張ろうって思ったんです」
「ありがとう」
「でもね」さくらが少し照れながら言った。
「菜月先輩のことは、やっぱり特別だと思ってます」
「私も、さくらちゃんのこと大好きやて」
二人は抱き合った。
◆バイト先のサニーテーブルで◆
夕方、菜月はいつものようにバイトに出ていた。
「いらっしゃいませ!」
元気な声で客を迎える。もう方言で失敗することも少なくなった。標準語と福井弁、うまく使い分けられるようになっていた。
「菜月ちゃん、5番テーブル、圭介先輩よ」
佳乃がにやりと笑いながら言った。
「え?また来たがけ?」
菜月が振り返ると、圭介が座っていた。
「こんにちは、菜月さん」
「圭介先輩、今日は京都から来てくれたがですか?」
「はい、菜月さんの顔が見たくて」
周りのお客さんが微笑ましそうに見ている。
「ご注文は?」
「いつものオムライスを」
「かしこまりました」
菜月が厨房に注文を通すと、田村店長が笑っていた。
「菜月ちゃん、彼氏また来たの?」
「はい、遠距離やけど、よう来てくれるがです」
「いい彼氏じゃない」
「ほやの」
菜月は幸せそうに笑った。
◆休憩時間、店の外で◆
「お疲れさまです」
圭介が待っていてくれた。
「圭介先輩、いつもありがとうございます」
「いえ、会いに来るのが楽しみなんです」
二人は並んで歩いた。
「あのね、圭介先輩」
「はい?」
「私、最近気づいたことがあるがやて」
「何ですか?」
「方言と標準語、両方使えるようになって、世界が広がった気がするがよ」
「素晴らしいですね」
「標準語で話すと、色んな人と話せる。でも、福井弁で話すと、故郷とのつながりを感じられる」
圭介が菜月の手を握った。
「菜月さんは本当に成長しましたね」
「圭介先輩のおかげやて」
「いえ、菜月さん自身の力です」
「あれ?菜月?」
後ろから聞き覚えのある声。
振り返ると、悠真が立っていた。
「悠真!どうしてここに?」
「仕事の研修で東京に来たがよ。ちょうど菜月のバイト先の近くやったから」
「そうなんけ!」
圭介が悠真に挨拶した。
「お久しぶりです、悠真さん」
「ああ、圭介さん。お久しぶりです」
二人は握手した。少し気まずい雰囲気。
「あの、二人とも…」菜月が慌てた。
「大丈夫です」圭介が笑った。「悠真さんとはライバルじゃなく、菜月さんを大切に思う者同士ですから」
「そうやな」悠真も笑った。「俺、もう吹っ切れたし」
「ほんまに?」菜月が心配そうに聞いた。
「おう。実は俺も、地元で気になる子ができたがよ」
「ほんまに?!」
「うん。だから、菜月も幸せになってくれ」
悠真の笑顔は、もう寂しくなかった。
「ありがとう、悠真」
三人で少し話をした後、悠真は去っていった。
「良かったですね」圭介が言った。
「うん」
菜月は安心した。悠真も前に進んでいる。
◆夜、一人の部屋で◆
未来がいなくなって、もうすぐ一年。部屋は今でも一人部屋のままだった。
携帯を見ると、未来からメッセージが来ていた。
『菜月ちゃん、元気?私、来月東京に戻ることになったよ。また会えるね』
菜月は飛び上がって喜んだ。
「ほんまに?!」
すぐに電話をかけた。
「もしもし、未来ちゃん?」
「菜月ちゃん、久しぶり」
「ほんまに東京に戻ってくるがけ?」
「うん、家族の事情が解決して。大学にも復学できることになったの」
「嬉しいやて!」
「私も嬉しい。菜月ちゃんに会えるの、楽しみ」
「私も!」
「あのね、菜月ちゃん」
「うん?」
「私、もう大丈夫だから」
「え?」
「菜月ちゃんへの気持ち、ちゃんと整理できた。これからは本当の意味で友達でいられる」
「未来ちゃん…」
「だから、安心して。変に気を遣わないでね」
「ありがとう、未来ちゃん」
電話を切った後、菜月は涙が止まらなかった。
嬉しい涙だった。
◆翌週、未来との再会◆
駅のホームで、菜月は未来を待っていた。圭介とさくらも一緒だ。
「来た!」
未来が大きな荷物を持って降りてきた。
「未来ちゃん!」
「菜月ちゃん!」
二人は抱き合った。
「会いたかったやて」
「私も」
未来が圭介に挨拶した。
「圭介さん、お久しぶりです」
「お帰りなさい、未来さん」
「菜月ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「はい、必ず幸せにします」
さくらも未来に近づいた。
「未来さん、お帰りなさい」
「さくらちゃん、久しぶり。元気そうね」
「はい、おかげさまで」
二人は意味深な笑顔を交わした。同じ想いを抱えていた者同士、分かり合えるものがある。
◆カフェで四人で◆
「じゃあ、乾杯!」
四人でジュースで乾杯した。
「未来ちゃんが戻ってきて、本当に嬉しいやて」
「私も嬉しい」
「それで、これからどうするの?」圭介が聞いた。
「大学に復学して、また勉強頑張る。それから…」
未来が菜月を見た。
「また菜月ちゃんのルームメイトになりたいんだけど」
「ほんまに?!」
「うん、ダメ?」
「ダメなわけないやて!嬉しい!」
さくらが笑った。
「良かったですね、菜月先輩」
「うん、めっちゃ嬉しいやて」
◆その時、予想外の展開◆
カフェのテレビで、福井のニュースが流れていた。
「え?これ、おばあちゃんの店?」
画面には、菜月のおばあちゃんの和菓子店が映っていた。
『福井の伝統和菓子を守り続ける老舗』というタイトル。
「おばあちゃん、テレビに出とる!」
菜月は慌てて携帯を取り出した。
「もしもし、お母さん?おばあちゃん、テレビに…」
「見たけ?すごいやろ?」
母の声が興奮していた。
「おばあちゃん、全国ネットのニュースに出たがよ」
「ほんまに?」
「うん。菜月が東京のお茶部で福井の和菓子を広めてくれたおかげで、取材が来たがやって」
「私のおかげ?」
「そうや。菜月が頑張ってくれたおかげや」
菜月の目に涙が浮かんだ。
「お母さん…」
「菜月、ありがとうな」
電話を切った後、みんなが拍手してくれた。
「すごいじゃない、菜月ちゃん」未来が言った。
「菜月さんの努力が実ったんですね」圭介が微笑んだ。
「菜月先輩、かっこいいです」さくらが目を輝かせた。
「みんな、ありがとう」
菜月は幸せで涙が止まらなかった。
◆夕方、圭介と二人で◆
「菜月さん、今日は本当に良い日でしたね」
「うん、嬉しすぎて信じられんやて」
二人は夕日を見ながら歩いていた。
「あのね、圭介先輩」
「はい?」
「私、一年前は方言がコンプレックスやったがやけど、今は誇りに思えるようになった」
「素晴らしいですね」
「それも、圭介先輩や、みんなのおかげやて」
圭介が立ち止まって、菜月の顔を見た。
「菜月さん、愛してます」
「私も、愛してます」
二人は抱き合った。
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「もちろんやて」
菜月が笑った。
「あ、また方言が」
「いいんです。菜月さんの方言、大好きですから」
◆その夜、寮の部屋で◆
「ただいま」
「お帰り」
未来が温かいお茶を入れてくれた。
「未来ちゃんが戻ってきて、本当に嬉しいやて」
「私も。やっぱりこの部屋が一番落ち着く」
二人は並んでベッドに座った。
「ねえ、菜月ちゃん」
「うん?」
「菜月ちゃんと過ごした一年間、私の宝物だよ」
「私も」
「これからまた、一緒に色んなこと経験しようね」
「うん」
二人は笑い合った。
◆数日後、お茶部での出来事◆
「みなさん、発表があります」
麻美部長が言った。
「来月、全国お茶会コンクールがあります。うちの部も出場することになりました」
「ほんまですか?」菜月が目を輝かせた。
「はい。そして、菜月ちゃんに代表を務めてもらいたいんです」
「え?私が?」
「あなたが一番ふさわしいわ。福井の伝統も知っているし、お茶の心も理解している」
「でも…」
「大丈夫やて」さくらが励ました。
「みんなでサポートするから」
◆コンクール当日◆
会場には全国から大学のお茶部が集まっていた。
「緊張するやて」
「大丈夫ですよ、菜月さん」
圭介が応援に来てくれていた。悠真も、未来も、佳乃も、田村店長も。
そして驚いたことに、母とおばあちゃんも福井から来てくれていた。
「お母さん、おばあちゃん!」
「菜月、頑張りや」
「応援しとるで」
菜月の目に涙が浮かんだ。
◆お点前の実演◆
菜月は静かにお茶を点て始めた。
おばあちゃんに教わった通りの美しい動作。
そして、審査員にお茶を差し出す時、自然に言葉が出た。
「どうぞ、召し上がってくださいの」
福井弁が出てしまった。しまった、と思った瞬間。
審査員が微笑んだ。
「温かい言葉ですね。どちらの方言ですか?」
「福井です」
「素晴らしい。お茶の心と、故郷への愛が伝わってきます」
菜月は安心して、続きを披露した。
◆結果発表◆
「優秀賞、東京◯◯大学」
会場に拍手が響いた。
「やったやて!」
菜月は飛び上がって喜んだ。
みんなが駆け寄ってきた。
「おめでとう、菜月ちゃん!」
「すごいやん、菜月!」
「よくやったな」
みんなの笑顔に囲まれて、菜月は幸せで涙が止まらなかった。
◆夜、打ち上げパーティーで◆
「菜月、本当におめでとう」
母が涙を流しながら抱きしめてくれた。
「お母さん、来てくれてありがとう」
「菜月の晴れ姿、見られて嬉しかったわ」
おばあちゃんも近づいてきた。
「菜月、よう頑張ったの」
「おばあちゃんのおかげやて」
「いいや、菜月の努力や」
圭介が菜月の隣に来た。
「お母様、おばあ様、菜月さんをお借りしてよろしいですか?」
「ええよ」母が笑った。
「大切にしてやってくださいね」
「はい、必ず」
◆会場の外、夜景の見える場所で◆
「菜月さん」
「はい」
「今日、改めて思いました」
「何を?」
「菜月さんは、本当に素晴らしい人だと」
圭介が菜月の手を取った。
「方言も、故郷への愛も、全部が菜月さんの魅力です」
「圭介先輩…」
「これからも、ずっと一緒にいてください」
「はい」
二人は抱き合った。
その時、後ろで拍手が聞こえた。
振り返ると、さくら、未来、悠真、佳乃、みんなが笑顔で見ていた。
「お似合いやん」悠真が笑った。
「幸せになってね」未来が微笑んだ。
「ずっと応援してます」さくらが涙を拭いた。
菜月は恥ずかしくて、でも嬉しくて、また泣いてしまった。
数ヶ月後。菜月は故郷の海岸に立っていた。
圭介が隣にいる。
「懐かしいですね」
「うん、この場所、悠真とよう来たがよ」
「良い場所ですね」
「圭介先輩、ありがとう」
「何がですか?」
「私の方言を、故郷を、全部大切にしてくれて」
「当たり前です。それが菜月さんですから」
二人は手を繋いで、波打ち際を歩いた。
「あのね、圭介先輩」
「はい」
「私、気づいたがやて」
「何を?」
「『あの町の言葉』と『この町のわたし』、両方を持つことができるって」
「素晴らしい気づきですね」
「故郷の言葉を話しても、東京のわたしは消えない。東京で標準語を話しても、故郷のわたしは消えない」
圭介が菜月を抱きしめた。
「菜月さんは、両方を持つ、素敵な人です」
「ありがとう」
夕日が二人を優しく照らしていた。
菜月は思った。
これまで色々なことがあった。
方言で失敗したり、誤解されたり、恋愛で悩んだり。
でも、全部が自分を成長させてくれた。
そして、大切な人たちに出会えた。
圭介先輩、さくら、未来、悠真、佳乃、お茶部のみんな、バイト先のみんな。
そして、いつも応援してくれる家族。
「みんな、ありがとう」
小さくつぶやいた。
「これからも、自分らしく生きていく」
「方言も、故郷も、東京も、全部大切にしながら」
圭介が菜月の頬にキスをした。
「愛してます、菜月さん」
「私も、愛してます」
二人は笑い合った。
そして、新しい明日へ向かって歩き出した。



