「レイリン様、アリアドネ王女殿下も是非お茶の席を設けたいとのことでした。いつでも尋ねて来てくれれば嬉しいとのことでしたが如何でしょうか?」

「そう、では今からアリアドネ王女殿下に会いに行くわ。メリダ、至急準備を」

 私、レイリン・メダンは昨晩会ったアリアドネと、じっくり話がしたいと思っていた。

 昨晩会った彼女が初めて出会った時とは違い、どうにも気になる女性だということだけではない。

 私は今朝初めてルイス皇子から朝食に誘われ、頼み事をされたのだ。彼はいつもの冷たく鋭い目つきではなく、明らかに柔らかい表情をしていた。昨日から私は彼の変化に気がついていた。

 私は彼を10年以上想い続けて見つめてきた女だ。

 だから、彼が恋をしていることにも当然気がついてしまった。

 野心家で女性に対する警戒心が人一倍強い彼が、今アリアドネ・シャリレーンに恋をしている。そして、彼が恋をしているの女はアリアドネの替え玉なのではないかと私は睨んでいた。

 いくらなんでも、初めて会った危険な空気を纏った魔性の女アリアドネと、昨晩私を慰めた天使のようなアリアドネは別人だと感じた。

 そして、おそらく3カ国の王を虜にしてきたアリアドネは前者だ。

 ルイス皇子は替え玉の存在に気がついているのかいないのか分からない程に彼女に溺れていた。

 そして、最初こそ嫉妬したものの替え玉のアリアドネと話した後では嫉妬心は一切消えていた。彼女は目指してなれるような存在でもないくらい異質な女だったからだ。

 そして、私自身も感じたことのない好感を彼女に感じていた。

 彼女の存在があることでルイス皇子が、私を頼り優しく話しかけてくれる。私は彼に一目惚れしてから、10年以上ずっと彼に信頼され意見を交わしあえる関係になることを望んでいた。
 その望みが唐突に叶った。私は彼の知りたい情報を集める為にアリアドネに接触しようと思っていた。

「すぐにいらっしゃって頂けて嬉しいです。レイリン様!」

 人懐こく屈託ない笑顔を向けてくるアリアドネを、女の私でも可愛いと思ってしまう。

「いえいえ、私もアリアドネ様とお話がしたかったのです。昨日は情けない姿を晒してしまい申し訳ございませんでした」

 私の言葉にアリアドネが首をゆっくり振った。
 ピンクゴールドのウェーブ髪がふわりと揺れて、思わず触れたくなる。